45m電波望遠鏡の分光計システム

分光計とは?

天体からのスペクトルを得るためには、電磁波を周波数によって細かく分割し、 各周波数ごとの強度(パワースペクトル)を測定しなければならない。 電磁波を分光する方法として、可視光の観測では回折格子やスリットが用いられている。 電波観測の場合は、フィルターバンク型分光計、自己相関型分光計、 音響光学型分光計などが用いられている。

音響光学型分光計

野辺山観測所の45m望遠鏡では、主に音響光学型分光計(Acousto-optical Spectrometer = AOS)が使われている。分子雲などのように 内部の速度構造を詳細に調べるような観測に適した、帯域幅が狭く、 周波数分解能が高い分光計(AOS-H)が16台、 系外銀河のように輝線幅の広い天体を観測するのに適した 分光計(AOS-W)が9台、さらに輝線幅の広い銀河の観測や 高い周波数での観測用に開発されている分光計(AOS-U)が1台ある。

音響光学型分光計(以下AOSと言う)の特徴は、 帯域幅とチャンネル数を非常に大きく取れることである。 そのため、ミリ波のように周波数の高い電波の観測、 また、分子輝線のように高い周波数分解能を必要とする観測に非常に適している。 以下に簡単に原理を示す。


AOSの模式図

天体からの電磁波は、先に述べたように低い周波数(中間周波数)へと変換される。 この中間周波数信号(IF信号)増幅された後、音響光学型偏向素子に入力される。 素子の入力部には、圧電素子(トランスデューサー)と呼ばれる結晶が付けられており、 ピエゾ効果によって電気信号が機械振動、即ち超音波に変換される。 変換された超音波は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)や二酸化テルル(TeO2)、 ガリウムリン(GaP)などの結晶からなる超音波媒質中を疎密波として進み、 吸収材に吸収される。結晶中に疎密波が伝播している場合、平行な単色レーザー光を照射すると、 超音波の疎密パターンによってレーザー光は回折される(超音波による回折現象)。 つまり、天体からの電波スペクトルが、 空間的に分布したレーザー光のパワースペクトルとして観測されるわけである。 レーザー光の検出にはCCD(電荷結合素子)のようなイメージ・センサーが用いられる。 AOSの模式図を図に示す。

45m望遠鏡に備わっているAOSは、AOS-Hが40 MHz幅、 AOS-Wが250 MHz幅、 AOS-Uが500 MHz幅で、いずれも2048チャンネルのレチコン(シリコン・ダイオード・アレイの一種) を検出器として用いている。広帯域のAOSは、安定性などの問題のために製作が難しいが、 世界には2 GHz帯域のものが開発されている。ちなみに、日本では、東京大学理学部天文学教育研究センターの 60cm電波望遠鏡 2号機(チリに移設)で1 GHz帯域のAOSが稼働している。 また、東京大学理学部と国立天文台、国立分子化学研究所が共同で開発した 富士山頂サブミリ波望遠鏡 にも1 GHz帯域のAOSが装備されている。

AOSは周辺の温度変化や空気の流れ、振動などに対して弱いために、 温度変化が一定に保たれた暗室中の光学定盤上に設置されている。

デジタル分光計

45m望遠鏡用には25マルチビーム受信機が搭載されている。このシステムでは、 25点を同時に観測するために、25台の分光計が必要である。 しかも、25台の分光計にばらつきがあると、得られた電波画像の質が揃わなくなる。 また、25台の分光計を常に、安定に稼働させねばならない。 AOSは、音響光学偏向素子の個体差が比較的大きく、また、調整等も必要なため、 焦点面アレイのバックエンドしては適さない。 そこで、45m望遠鏡グループでは、性能のばらつきが殆どなく、 調整も不要なデジタル分光計を開発した。

デジタル分光計の場合、中間周波数信号はA/D変換器でサンプルされ、 デジタル化される。このデジタル・データに対して、自己相関LSI(大規模集積回路) で自己相関を取り、その後フーリエ変換して、スペクトルを得る。 デジタル分光計は、周辺の環境変化に関係なく、 非常に安定して動作することが期待されている。

デジタル分光計は、1台でさまざまな帯域と周波数分解能を実現できる。 この分光計は現在、1台で広帯域モード(512 MHz帯域)と 高周波数分解能モード(32/16/8/4 MHz帯域)での運用が可能である。 このデジタル分光計は、マルチビーム受信機だけでなく、 従来のシングルビーム受信機に接続して AOSを上回る広帯域/高周波数分解能を活かした観測に利用されている。


2006-12-09 nro45mrt @ NRO