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"怪物銀河" MIPS-J1428とは?
MIPS-J1428は、米国カリフォルニア工科大学の研究グループ[1]が
スピッツァー宇宙望遠鏡
に搭載されているMIPS (ミップス, Multiband Imaging Photometer for Spitzer)という中間赤外線カメラを使って"うしかい座"に発見した非常に特異な銀河です。中間赤外線は主に比較的暖かい
塵
を観測するのに適しており、このスピッツァー宇宙望遠鏡の観測によってMIPS-J1428に暖かい塵が大量にあることがわかりました。この塵が放つエネルギーは非常に大きく、じつに私たちの天の川銀河が放つエネルギーの1000倍ものエネルギーに匹敵します。このためこの銀河は多くの天文学者の注目を集めていました。
[1] Borys et al., 2006, ApJ, 636, 134
図1-1:画像はスピッツァー宇宙望遠鏡搭載のIRAC (アイラク)近赤外線カメラで観測した、うしかい座にあるMIPS-J1428です。画像はSpitzer Archive (http://ssc.spitzer.caltech.edu)より取得しました。
塵を暖める生まれたばかりの星たち
宇宙空間に存在する微細な
塵
は、熱せられない限りみずから光を放つことはできません。しかし、MIPS-J1428にある塵が明るく輝いているということは、塵を暖める「何か」があるはずです。MIPS-J1428に存在するであろうその「何か」を調べるために、チャンドラX線観測衛星を使ってX線でも観測されました [2] [3]。X線は非常にエネルギーの高い光であり、ブラックホール周囲のプラズマから放射されることが知られています。したがって、X線で輝いている銀河は中心に巨大ブラックホールを持っており、その周囲のプラズマからの放射により熱せられた大量の塵が赤外線で輝くと考えられています。MIPS-J1428も赤外線で非常に明るく輝いているため、やはりX線でも光り輝いているだろうと予想されていましたが、その予想に反してMIPS-J1428はX線では検出されませんでした。この観測結果によってMIPS-J1428の塵を暖めている「何か」の正体が明らかになってきました。それは、巨大ブラックホールではなく、生まれたばかりの重い星の大集団です。重い星は高いエネルギーを持った光を強く放ち、これが塵を暖めていたのです。
[2] Kenter et al., 2005, ApJS, 161, 1
[3] Murray et al., 2005, ApJS, 161, 9
「怪物」銀河 〜星を生み出す速さは天の川銀河の1000倍以上〜
この塵の放つ光の強さを観測する事により、一年間にどれくらいの星が誕生しているかを見積もることができます。伊王野ら(2006) [4]やBorysら(2006) [1]のグループはハワイのマウナケア山頂にある
サブミリ波干渉計(SMA)
や
JCMT
を使って塵からのサブミリ波強度を測定し、重さにして一年間に太陽5000個分に相当する星々を形成していることを明らかにしました。この星を生み出す速さは、私たちの住む天の川銀河の1000倍以上にも及びます。このような非常に速いスピードで爆発的に星形成が起こっている銀河は非常にまれであり、「怪物」的な存在であると言えるでしょう。
[4] Iono et al., 2006, ApJ, 640, L1
図1-2:MIPS-J1428を包んでいる塵の分布(青)と赤外線画像(赤)。この塵の観測から、MIPS-J1428は大量の分子ガスとともに、大量の塵にも埋もれていることがわかっています。(画像データはハワイ・マウナケア山頂のサブミリ波干渉計(SMA)で伊王野ら (2006)が取得。画像データは
NOAO Deep Wide Field Survey
より取得。)
88億年前の宇宙では何が起っているのか?
最近の観測技術の発達により、宇宙の年齢は約137億年だということがわかっています。では、MIPS-J1428がいる88億4千万光年彼方の宇宙、言い換えれば、ビックバンから48億2千万年後(今から88億4千万年前)の宇宙ではどんなことが起っていたのでしょう?さまざまな望遠鏡で数多くの銀河を調べると、その銀河たちが一年間に生み出す星の個数(これを
星形成率
と呼びます)を算出することができます。この星形成率を宇宙のあらゆる年齢で調べると(下図参照)、約100億年前(宇宙年齢37億歳)に宇宙全体の星形成率が最大になっていることがわかってきました。つまり、約100億年前の宇宙は史上最も活発に星が生まれていた、いわば宇宙のベビーブームの時代と言えます。MIPS-J1428は宇宙のベビーブームから10億年以上も後の時代に存在しており、これは宇宙全体では星形成がやや下り坂にさしかかった時期に対応します。それにもかかわらず、まだまだたくさんの星を生んでいるMIPS-J1428は非常に特異であり、この銀河がいったい何者で、今後どのような進化を遂げるのかを、世界中の研究者が興味を持って注目していました。
図1-3:図はさまざまな銀河たちが一年間に生み出す星の個数(星形成率)を宇宙のあらゆる年齢で調べた結果を示しています。宇宙年齢約40億歳(もしくは約100億年前)頃の宇宙にて、宇宙史上最も活発に星が生まれていたことがこの図からわかります。MIPS-J1428はこの宇宙のベビーブーム時代に存在する「怪物」銀河なのです。
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