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巨大な電離水素領域で

星が”段階的に”生まれている現場をとらえた!

2010年11月02日

<研究概要>

東京大学、国立天文台の三浦理絵(みうらりえ)氏、奥村幸子准教授らの研究グループは、天の川銀河の隣、さんかく座銀河(M33)にあるNGC604という巨大な電離領域では、電離領域の拡大につれて星が数世代に渡って”段階的に”生まれている現場を見つけました。

この巨大電離領域は、650-1000光年ほどの広がりを持ち、その中心部では200個以上もの重くて若い星の集団が生まれています。 これほど明るく大きな電離領域は珍しく、天の川銀河内の最も大きい電離領域よりも2、3倍の明るさがあります。 このような領域にはよりたくさんの分子ガスがあることがわかっていますが、電離領域の中で、たくさんの分子ガスからどのようにして星が生まれるかについての研究はあまりなく、理論的に簡単な予想がされているだけでした。

研究グループでは、野辺山ミリ波干渉計を用いて、この領域内に存在する分子ガスの中でも、星の材料である高密度ガスがある領域や若い星が生まれている領域の探査を行いました。それらと電離領域の広がりや中心の星団との位置関係を調べ、中心部の星団からの距離が遠くなるにつれて星形成の活発さが減少していることを発見しました。これは、電離領域の膨張に伴って、星が数世代に渡って段階的に星が生まれている(段階的星形成)という証拠のひとつになります。巨大電離領域は、同時に生まれた星団だけでなく、数世代の星が集まって形成されていたのです。 これまで、電離領域での段階的星形成の証拠はいくつかありましたが、一つの巨大電離領域の中で、これほど詳細に星が生まれるプロセスを明らかにしたのは、今回が初めてです。

今後は現在チリのアタカマ砂漠に建設中のアルマ望遠鏡を用いて、より高い解像度・高い感度の観測を行い、巨大電離領域での星が生まれる過程をさらに明らかにしていきます。

さんかく座銀河の巨大電離領域NGC604における一酸化炭素、シアン化水素、波長3mm連続波の干渉計観測  ~巨大電離領域によって誘発された段階的星形成~

<本研究の詳細>

生まれたての重い星たちは強い紫外線を放出し、まわりの水素ガスを電離させて"電離水素領域"をつくります。 この電離領域が膨張するにつれて、まわりのガスは外側へ押され、あるところで掃き集められたガスは徐々に密度を増し、密度が高くなった部分で星が生まれると考えられています。電離領域を作った星たちを第1世代目とすると、掃き集められたガスの中で生まれた星たちは第2世代目の星集団とされ、このような星の生まれ方を”段階的星形成”と呼んでいます。つまり、電離領域は次の世代の星が作られるきっかけをつくっているのです。 天の川銀河内の電離領域では、光や赤外線、電波などさまざまな波長による観測から、段階的星形成の証拠が見つかってきました。一方、天の川銀河の外、他の銀河の中には、より巨大な電離領域がたくさんあります。そこには、よりたくさんの分子ガスがあることがわかっていますが、そのたくさんの分子ガスからどのようにしてたくさん星が生まれるかについての研究はあまりなく、理論的に簡単な予想がされているだけでした。

図1)ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた巨大電離領域NGC604の光の画像。
※図はハッブル宇宙望遠鏡のホームページより引用しています。 大きな画像はこちら

東京大学、国立天文台の三浦理絵(みうらりえ)氏らの研究グループは、野辺山ミリ波干渉計を用いて、さんかく座銀河(M33)にあるNGC604という巨大な電離領域から、世界で初めてシアン化水素、波長3mm連続波を検出することに成功しました。また、一酸化炭素の観測も行っており、世界でもっとも解像度の高い電波画像を得ることに成功しました。 一酸化炭素は星の材料である分子ガスの存在指標としてよく用いられますが、シアン化炭素はそれよりも100倍以上も密度が高い分子ガスの指標となることが知られています。星は分子ガスの塊(以後、分子雲)の中でも密度がより高い場所で生まれます。したがって、一酸化炭素は星の元である分子雲の指標、シアン化炭素は分子雲の中でもより密度が高い場所の指標と考えられます。一方、波長3mm連続波は、主に若くて重い星からの強い紫外線によって電離されたガスからの放射であるので、重い星が生まれている場所を教えてくれます。 この巨大電離領域は、650-1000光年ほどの広がりを持ち、その中心部では200個以上もの重くて若い星の集団が生まれています(図1)。 これほど明るく大きな電離領域は珍しく、天の川銀河内の最も大きい電離領域よりも2、3倍の明るさがあります。このような巨大な電離領域で、これほどたくさんの星たちがまわりのガスにどのように影響を与えているのかを詳しく調べることは大変重要です。

観測の結果、この巨大電離領域には少なくとも10個の分子雲があり、そのうち2つのもっとも大きな分子雲でシアン化水素を検出、また中心の星集団の近くにある分子雲2つで連続波を検出しました。研究グループは、中心の星集団や電離領域の広がりとの位置関係から、電離領域が膨張するにつれて星形成の活発さが減少していることを発見し、この領域では電離領域の膨張によって星形成が伝播しているというシナリオを提案しています。中心部の星集団が第1世代の星とすると、その近くにある分子雲(図2中、(2)で示されています)では、若く重い星がたくさん生まれている可能性があり、これらは第2世代目の星だと考えられます。中心部の星集団から少し離れた場所にある分子雲(図2中、(3))では、高密度ガスの中で若く重い星がたくさん生まれています。これらの星は、同じく第2世代の星か、あるいは、第2世代の星の影響によって生まれた第3世代の星かもしれません。さらに遠くの、巨大電離領域の端のほうにある分子雲(図2中、(4))は、内部でガスの密度が高くなっていることがわかりました。このような分子雲は星を作る準備をしていると考えられます。

図2)電離領域の膨張によって伝播する星形成(段階的星形成)

※括弧内の番号は図2中の番号と一致しています。

(1) - 第1世代の星 -
図中央のピンクの印は中心の星集団がもっとも密に集まっている場所を表しています。

(2) - 第2世代の星が生まれている分子雲 -

(3) - 第2または第3世代の星が生まれている分子雲-
中心部の星集団から少し離れた場所にある分子雲では、高密度ガスの中で若く重い星がたくさん生まれています。

(4) - 重い星が生まれる前の分子雲 -
さらに遠くの、巨大電離領域の端のほうにある分子雲は、内部でガスの密度が高くなって、星を作る準備をしていると考えられます。

・図の見方:背景の白黒の画像が電離領域の広がりを表しています。水色の等高線が分子雲の場所、赤色の等高線が高密度ガスがある場所、黄色い場所が若くて重い星が生まれている場所を示しています。図2で示されている領域は図1の左側の図で示されている領域と同じくらいです。

イメージ動画)野辺山ミリ波干渉計がとらえた段階的星形成

<研究論文について>
本研究成果は、2010年11月発行の米国の天体物理学専門誌『 The Astrophysical Journal 』に掲載されました。 R.Miura et al., "Aperture Synthesis Observations of CO, HCN, and 89GHz Continuum Emission toward NGC 604 in M 33: Sequential Star Formation Induced by Supergiant Hii region", The Astrophysical Journal, Volume 723, Issue 2, 2010

<問い合わせ先>
rie.miura (at) nao.ac.jpまでご連絡ください。※ (at)をアットマーク"@"に替えて下さい。

<リンク>

※"MAGiC Project" (NRO M33 All Disk Survey of Giant Molecular Clouds) は、様々な望遠鏡を使って近傍渦巻銀河M33にあるたくさんの巨大分子雲を観測して、巨大分子雲の進化を探ろうという大規模プロジェクトです。