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国立天文台の田村陽一研究員、伊王野大介助教が率いる日米英メキシコの国際共同研究チームは、みずがめ座の方向、115億光年遠方の宇宙において、原始クエーサー(脚注1)と認められる特異天体を発見しました。クエーサーの成長が促進されると予想される銀河の過密領域で原始クエーサーと目される天体が発見されたのは、本研究が世界初です。
クエーサーは、複数の銀河が合体することで生まれる爆発的星形成銀河(モンスター銀河)の中心部において、ブラックホールが大量のガスを吸い込んで急成長することによって生じるとする仮説が有力です。この仮説を検証するには、モンスター銀河の中心にクエーサーの前段階「原始クエーサー」を見つける必要がある一方で、原始クエーサーは濃いガス(暗黒星雲)に包まれていると予想されるために発見はきわめて困難です。
研究チームは、銀河の合体が生じやすい銀河の過密領域(距離115億光年)の内部で発見していたモンスター銀河(脚注2)のうち最も規模が大きいものに対し、米国サブミリ波干渉計、日本のサブミリ波望遠鏡アステやすばる望遠鏡を含めた世界7つの望遠鏡を駆使して研究をおこないました。この結果、濃いガスを透過する電磁波(サブミリ波、赤外線、X線)で検出に成功した一方、すばる望遠鏡による可視光観測では対応する天体が見つかりませんでした。これは銀河全体が分厚い暗黒星雲に包まれているため可視光が暗黒星雲に遮られてしまうからと考えられます。とりわけ、X線源の全放射エネルギーは太陽の2兆倍に達し、その発生機構を自然に説明できるのは巨大ブラックホールの急激な成長だけです。このことから、このモンスター銀河は巨大ブラックホールの揺りかご、原始クエーサーである可能性がきわめて高いことがわかりました。
これまで謎とされる点が多かった巨大ブラックホールの成長過程を観測的・理論的に理解するうえで、今回発見された天体は絶好の研究対象になると期待されます。
本研究成果は、12月1日発行の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載される予定です。
【脚注1】 クエーサーとは、銀河の中心に位置するコンパクトな天体(銀河核)のうち、非常に離れた距離においても極めて明るく観測されるものを指します。宇宙で最も明るい天体の1つで、その莫大なエネルギー源は巨大ブラックホールの強力な重力だと考えられています。原始クエーサーとは、通常の銀河核からクエーサーに進化する過渡期にある銀河核のことをいいます。
【脚注2】 2009年に英国の科学雑誌『ネイチャー』に掲載。国立天文台記者発表「115億光年彼方に爆発的星形成銀河の集団を発見」。
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