触角銀河における分子ガスの物理状態と運動の解明
東京大学大学院理学系研究科の大学院生・植田準子氏、国立天文台の伊王野大介助教、川邊良平教授らを中心とする国際共同研究チームは、米国サブミリ波干渉計を用いて、二つの渦巻銀河が衝突している天体に分布する巨大分子ガス雲の空間分布を、これまでの研究よりも約10倍詳しく明らかにすることに成功しました。
研究チームの解析結果は、これらの巨大分子ガス雲で、近い将来、星の大集団が誕生することを示しています。さらに、研究チームは分子ガスの運動に関しても解析を進めました。そして、二つの銀河の片方の中心付近に、分子ガスが流れ込んでいることもわかりました。これは、衝突後の銀河の運命を大きく左右する巨大ブラックホールの成長にも関係すると考えられます。
研究チームが観測したのは、触角銀河(別名:アンテナ銀河、NGC 4038/9)です。からす座の方向およそ7000万光年の距離にあり、地球から最も近い距離にある衝突銀河として知られています。
この触角銀河のような銀河と銀河がぶつかり合う現場は頻繁に観測されており、また、衝突時には爆発的な星の誕生が起こることも知られています。さらに、遠方の宇宙では、衝突していると考えられる銀河の割合が増えることもわかってきました。そのため、現在では、銀河の衝突は、銀河進化において重要な役割を果たすと考えられています。銀河進化を理解するためには、衝突している銀河で、どのようにして星形成が起こり、銀河の衝突・合体のプロセスが進むのかを詳しく調べる必要があります。
研究チームは、今後、触角銀河のさらに密度の高い分子ガスを観測し、まさに星団が形成されている領域の分子ガスの様子を明らかにしたいと考えています。そのために、今年秋から初期科学運用が開始されたアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)での観測を目指しています。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載予定です。
図1(上図):(左図)可視光で見た触角銀河。 (右図)等高線が今回の観測で得られた分子ガスの分布を表しています。 背景は、Hubble Space Telescope で観測された画像(波長435nm)です。主に若い星の分布を表しています。赤色のプラスは、2つの銀河の銀河中心を示しています。(クレジット記載例:「国立天文台、東京大学 提供」)