研究チームはすばる/XMM-Newton深宇宙探査領域においてサブミリ波で通常のモンスター銀河の10倍以上明るい天体を発見しました。すばる望遠鏡で得られた可視光の深い画像などを用いて検証したところ、この非常に明るいサブミリ波の源は、近傍の宇宙に存在する天体によるものではなく、どうやら遠方の、初期宇宙からのものであることがわかりました。本当に初期宇宙にこのようなサブミリ波を出す超モンスター銀河がいたとすると、1年間に太陽質量の10000倍以上の質量の星を生成している未だかつて知られていない超巨大星形成銀河になります。そこでこの天体「オロチ」と名付けました。

オロチの発見

オロチの正体は?

 研究チームは米国サブミリ波干渉計SMAと米国ミリ波干渉計CARMAを用いてオロチの正確な位置測定に成功しました。これによりオロチが他の波長で撮影された画像で検出されているか調べる事ができます。この結果、オロチの膨大な星形成に関係している星形成領域を包んでいると考えられる濃い塵(暗黒星雲)に由来するマイクロ波はもちろん、オロチの星からの光に由来するであろう近赤外線や可視光でも検出されていることがわかりました。

 

 研究チームはオロチの存在した時代を正確に測定するために米国カリフォルニア工科大学サブミリ波望遠鏡を用いて、オロチからの一酸化炭素の輝線の探査を行いました。一酸化炭素の輝線の波長のズレ(赤方偏移)を調べるとでオロチがどれほど太古の宇宙に存在したのかを調べる事ができます。観測の結果、一酸化炭素の輝線を検出することはできませんでしたが、波長1000ミクロンから1500ミクロンにかけて連続的にデータを得る事ができ、また一酸化炭素の輝線への制限を与えることができました。サブミリ波、ミリ波、マイクロ波のデータを詳細に調べたところ、オロチの電磁波はおよそ118億年前の宇宙からきていることがわかりました。さらに、可視光や近赤外線のデータを詳細に調べると、およそ90億年前の宇宙にもう一つ銀河が存在する事が明らかになりました。これらの事実から、同一視線上に二つの天体が並ぶ事により起こる「重力レンズ」という現象によってオロチは非常に明るく輝いている可能性が高いことが判明しました。

本研究の意義

 本研究の結果の意義は今まで知られていたサブミリ波で明るいモンスター銀河よりも十倍以上もサブミリ波で明るい超モンスター銀河なる種族がいることを発見したことです。

 初期宇宙に観測されるモンスター銀河は現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河や巨大ブラックホールの祖先にあたると考えられています。これら巨大楕円銀河などがどのようにして形成されたのかは宇宙の構造形成を考える上で非常に重要です。もし本当に超モンスター銀河に区分されるような、1年間に太陽10000個分を超えるような星形成をするような銀河種族がいたとすればそれは今まで天文学者が考えていなかった新しい銀河進化のプロセスになります。本研究によりオロチは重力レンズ効果により増光されている可能性が高いことがわかりましたが、今後、増光の度合いを詳しく調べることで、そうした、新しい銀河進化プロセスの発見につながる可能性を秘めています。



 また、今回見つけたオロチは増光されているが故、オロチを観測、研究することは本来既存の装置では暗くて詳細に観測できない天体を研究することに相当します。今後初期宇宙での星形成を詳細に調べる上で非常に重要な観測・研究対象となると期待されます。いよいよ始動したアルマ望遠鏡による詳しい観測も近々実施される予定となっています。また今回オロチに用いた観測手法は新時代の性能をもつアルマ望遠鏡によってオロチよりはサブミリ波で暗いモンスター銀河にも適用でき初期宇宙の爆発的星形成の現場を明らかにしていく予定です。

1 : 超モンスター銀河の位置づけの概念図。地球の属する天の川銀河は1年間で太陽2、3個分の星しか作りません。それに対してサブミリ波で明るいモンスター銀河は1年間で太陽1000個分ほどの星を作ると考えられています。今回発見した超モンスター銀河オロチはさらにその10倍以上サブミリ波で明るさです。

図2 : アステ望遠鏡により得られたすばる/XMM-Newton深宇宙探査領域のサブミリ波の画像(右)、オロチ周辺のすばる望遠鏡による可視光画像(左上)、オロチ周辺の米国サブミリ波干渉計SMAによるサブミリ波の高解像度画像(左下)。アステ望遠鏡で得られた画像を見ると、実はオロチの他にもサブミリ波で明るいモンスター銀河が多数写っているのですが、オロチがいると霞んで見えます。米国サブミリ波干渉計SMAによる画像は膨大な星形成をしていると期待される星生成領域からのサブミリ波の来た方向、オロチの正確な位置を指し示しています。すばる望遠鏡による可視光の画像を見ると同じ位置に赤い銀河がある事がわかります。

図3 : 別の距離にある2つの天体が視線方向上にほぼ重なるとき、手前の銀河の重力がレンズとして働き、奥にいる天体からの光を増光する可能性があります。今回発見した超モンスター銀河オロチは実は手前にいる銀河の重力で増光された星形成銀河の可能性が高いと考えられます。