新たな 100 GHz 帯 2 ビーム受信機の共同利用観測公開(2012-2013期の共同利用では1ビームのみを公開)
野辺山宇宙電波観測所の中島 拓研究員(現・名古屋大学・助教)を中心とする研究グループは、東京大学天文学教育研究センター、大阪府立大学宇宙物理学研究室などと共同で 45 m 電波望遠鏡用の新しい 100 GHz 帯の超伝導受信機である「TZ 受信機」の開発を行い、2013 年 1 月より共同利用観測での提供を開始しました。
この受信機は、電波の縦・横の偏波成分を導波管による OMT(Ortho-Mode Transducer;偏波分離器)で分け、上・下の両サイドバンドをサイドバンド分離ミクサ(2SB Mixer)で分けて受信することで、従来の片サイドバンド(SSB)タイプの受信機よりも高感度かつ広帯域の観測が可能です。また、ビーム数(視野)が 2 ビームあるため、ポジションスイッチ観測において常に天体を見続けることが可能となっており、従来の受信機に比べて 2 倍の観測効率を持っています。これは特に、非常に遠方(初期宇宙)にあるサブミリ銀河などを観測するのに適したシステムとなっています。ただし、2013年6月までの共同利用シーズンでは、1ビームのみを公開しております。
この受信機は、科学研究費補助金の特別推進研究「超広帯域ミリ波サブミリ波観測による大規模構造の進化の研究」(代表;河野 孝太郎・東京大学教授)の下で 2008 年から開発が開始され、2011 年 12 月に 110 億年前の宇宙に存在するクエーサーからの信号を受信することに成功しました。その後実用化に向けて受信機の性能向上を進めながら試験的な観測を行ってきましたが、いよいよ共同利用観測装置として、広く世界中の研究者に公開されました。
この受信機の詳細な仕様と、今回新たに設計開発された偏波分離器についての論文は、どちらも、Publications of the Astronomical Society of the Pacific 誌に掲載されています(Nakajima et al., 125, 252 (2013); Asayama & Nakajima, 125, 213 (2013) 参照)。
関連文献:天文月報 2013年4月第106巻第4号 EUREKA「野辺山45m望遠鏡搭載用超伝導受信機の開発ー世界最大のミリ波望遠鏡新たな10年へー」
- 図: 45 m電波望遠鏡に搭載された TZ 受信機の外観