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謎の宇宙竜巻「トルネード」の形成過程を解明

謎の天体、宇宙竜巻「トルネード」の詳細な電波観測から、「トルネード」の形成過程が解明されました。

宇宙竜巻「トルネード」は、らせん状の特異な形をした天体です。過去の研究で、回転ブラックホールからの双極ジェットによって形成されたとする説が提唱されました。しかし、ブラックホールの候補天体が見つからず、「トルネード」の正体についての論争に終止符が打たれることはありませんでした。

酒井大裕(東京大学)と岡 朋治(慶應義塾大学)らの研究チームは電波望遠鏡による観測を行い、「トルネード」に付随している二つの分子雲を検出しました。また、それらの分子雲と「トルネード」が激しく衝突している証拠も見つけました。さらに分子雲同士も、過去に激しく衝突したことを観測結果は示しています。

これらの観測結果から、分子雲の衝突によって発生した衝撃波の影響で、一時的に効率よく物質がブラックホールに落ち込み、ブラックホールから双極ジェットが吹き出したことによって「トルネード」は形成されたようだと研究チームは推測しています。

(a)トルネードの電波写真(Brogan & Goss 2003, AJ, 125, 272 より作成)。(b)等高線で電波強度を表し、X線イメージを重ねた図。(c)電波強度の等高線と一酸化炭素スペクトル線強度分布を重ねた図。赤は遠ざかる運動を、青は近づく運動を表している。(d)電波強度の等高線と衝撃波に特徴的なスペクトル線の強度分布を重ねた図。遠ざかる運動を赤で、近づく運動を青で表している。 大きい画像 (374KB)

宇宙竜巻「トルネード」(上図(a))は、さそり座の方向にあり、太陽系からの距離が約4万光年、広がりは約110光年の天体です。1960年の発見以来、この正体を巡って「エキゾチックな超新星残骸」「遠方の巨大ブラックホールが放出するジェット」「高速回転する中性子星」など様々な説が提案されてきました。

2011年のX線天文衛星「すざく」による観測で、「トルネード」の両端から温度・形状・大きさがほぼ等しい「双子プラズマ」が検出されました。双子プラズマの起源は次のように解釈されました。まず「トルネード」の中心にある回転ブラックホールに大量のガスが降り注ぎます。その一部が高エネルギー粒子の双極ジェットとして放出され、らせん状の電波源が形成しました。双極ジェットは周囲の星間雲と衝突し、両先端に「双子プラズマ」が生まれました。

しかし、「トルネード」の形成時期にどのようにしてブラックホールが一時的にジェットを噴出したかはわかっていませんでした。現在、「トルネード」を作り出したとされるブラックホールは、ジェットの噴出などの活動がみられないためです。そのため、「トルネード」の正体は論争が続いていました。

本研究チームは、「トルネード」周辺の星間物質の分布・運動を詳細に調べる目的で、電波望遠鏡を用いた観測研究を2009年から続けていました。過去の観測では「トルネード」両側に分子雲があることを確認していました。さらに今回、研究チームは国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡を用いて、「トルネード」周辺領域の分子が放射するスペクトル線の観測を行いました。

野辺山45メートル電波望遠鏡の観測では、「トルネード」方向に二つの分子雲を検出しました。一方は、これまでも知られていた分子雲(以下、分子雲A)で、もう一方は今回初めて検出した分子雲(以下、分子雲B)です。分子雲AとBの質量を見積もると、それぞれ太陽の30万倍と6万倍の質量でした。 観測結果によると分子雲Aは銀河系の回転運動とほぼ同じ運動をしています。一方、分子雲Bは銀河系の回転からやや外れた運動をしていました。さらに、分子雲AとBの形状と、これらの速度差が毎秒約20キロメートルという大きな値であることを考え併せると、分子雲AとBは過去に激しい衝突を起こしたことが推測されます。

「トルネード」と分子雲が同じ場所にあるならば、相互作用の証拠があるはずだと考えた研究チームは、アメリカ国立電波天文台の電波干渉計で取得された観測データを解析しました。すると「トルネード」と分子雲AとBを含む領域で、衝撃波に特徴的なスペクトル線を確認しました。以上の電波望遠鏡による観測結果をまとめると、「トルネード」と分子雲A, Bとが激しく衝突していること、分子雲中に衝撃波が発生していることがわかります。このことから、次のような「トルネード」の形成過程が描き出されます。

  1. (1)銀河系内で回転運動をしている分子雲Aに、回転からやや外れた運動をしている分子雲Bが衝突。
  2. (2)分子雲A内で発生した衝撃波の後方で形成した高密度層がブラックホールを高速で通過。
  3. (3)その際、一時的にブラックホールへ流れ込む物質の量が増加。
  4. (4)ブラックホールに落ち込む物質が作る円盤から双極ジェットが発生し「トルネード」を形成。トルネードは周囲の分子雲と衝突し、双子プラズマが発生。

左図)トルネード形成過程の想像図。分子雲同士の衝突により、一時的に大量の物質がブラックホールに流れ込み、双極ジェットが発生。大きい画像 (379KB)
右図)トルネード形成過程の想像図。双極ジェットと分子雲が衝突して双極プラズマが発生。大きい画像 (472KB)

このシナリオはこれまでに集められた「トルネード」の周辺のX線や電波の観測結果を説明できるだけでなく、ブラックホールが一時的にジェットを噴出し、かつ現在はジェットを噴出していない理由も説明できます。上記の過程で「トルネード」が形成されたとすると、双子プラズマの熱エネルギーを説明するために、少なくとも質量が太陽の20倍以上のブラックホールが必要という計算になります(下図)。

図2)双子プラズマの持つ熱エネルギーを説明する為に必要な、トルネード中心にあるブラックホールの質量の下限値(実線)。横軸は衝撃波速度、灰色の部分が説明可能な質量範囲を示す。大きい画像 (59KB)

<参照>
本研究成果は、8月20日発行の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載される予定です。
Millimeter-wave Molecular Line Observations of the Tornado Nebula

<リンク>
国立天文台野辺山45m電波望遠鏡      http://www.nro.nao.ac.jp/~nro45mrt/html/
慶應義塾大学理工学部 岡朋治研究室     http://aysheaia.phys.keio.ac.jp/