太陽の磁力線、可視化に成功
国立天文台の岩井一正研究員を中心とする共同研究グループは野辺山電波ヘリオグラフを用いて、太陽の磁力線の可視化に成功しました。
太陽の大気(コロナ)にも地球と同じように磁場が存在します。太陽コロナでは、フレアに代表される爆発現象が数多く発生します。これらはコロナ大気中の粒子と磁場との相互作用によって引き起こされます。よって、コロナ中の磁場を正確に計測することは、コロナにおける諸現象を理解するうえで非常に重要です。太陽表面(光球面)の磁場は古くから可視光の観測から導出する研究が盛んに行われてきました。しかし、より上空の大気であるコロナでは磁場自体が弱くなり、大気の状態も不安定になるため、磁場の計測が難しく、光球面の磁場からの外挿などによる推定にとどまっていました。
太陽コロナでは大気中の粒子が電子とイオンに分離した「プラズマ」によって満たされています。磁場のある環境では電子やイオンなどの荷電粒子は磁力線を中心に円運動します。この円運動の影響で、プラズマの大気を通過する電波は右回り円偏波と左回り円偏波で微妙に光学的厚さ(電波の通りやすさ)が異なります。この性質を利用すると、電波の円偏波率からプラズマ大気中の磁場強度を導出することができます。そこで本研究では野辺山電波ヘリオグラフの偏波データを解析することで、コロナの磁場を観測から直接導出することを試みました。
国立天文台・野辺山太陽電波観測所が運用する電波ヘリオグラフは、太陽観測専用の電波干渉計です。電波ヘリオグラフでは17GHzにおいて円偏波の観測をしています。円偏波成分は天候や装置の状態に影響を受けやすく、微弱な円偏波成分を取り出すには、慎重な解析と長い積分時間が必要です。本研究では、できるだけ正確に磁場が導出できるよう、ポストフレアループと呼ばれる比較的明るい領域に注目し、更にこの領域が明るい太陽面の影響を受けないよう、太陽面の外側にあるイベントを抽出しました。その結果を図1に示します。図1では地球近傍にいる太陽観測衛星(SDO/AIA)で得られた極端紫外線(EUV)の画像上に、赤の等高線で電波の円偏波成分が表示されています。コロナ中のイオンはEUVを放射します。電子やイオンなどの荷電粒子は磁力線に沿って存在するので、EUVの画像からは磁力線のおおよその形状や向きが分かります。図1のLTと表示された領域では約2.7%の円偏波成分が存在していました。この円偏波率から、視線方向の磁場が約84Gであることがわかりました。
次に磁力線の向きをEUVデータから導出しました。太陽観測衛星STEREOは地球軌道を脱出し、太陽を地球とは異なる角度から観測しています。観測が行われた日には地球と太陽を結ぶ直線から約133度傾いた方向にいました。STEREO衛星から得られたEUV画像を図2に示します。図2では横軸と平行な直線が地球からの視線に相当します。この画像を解析した結果、図1のLT領域の磁力線は地球の方向に対して10~30度傾いていることが分かりました。
最後に、電波の偏波観測から導出された視線方向の磁場と衛星観測から導出された磁場の向きを組み合わせて磁場の強度を求めます。その結果、LT領域での磁場は85〜98Gであることがわかりました。電波の放射からは磁場の視線方向成分が得られます。EUV放射からは磁力線の形状や向きが得られます。本研究はこの2つを組み合わせることで、コロナの磁場と方向の両方を導出することに成功しました。電波観測からコロナの磁場やその向きが同時に得られたのは今回が初めてであり、今後、磁場の情報が不可欠なフレアなどの研究に役立てられると期待されます。
この成果は野辺山太陽電波観測所主催のデータ解析研究集会で得られた結果をもとに論文化されたもので、Earth Planets and Space誌にFrontier letter (招待論文)として掲載されました。
出版論文: Iwai et al. (2014) Earth, Planets and Space (2014) 66,149 論文名:Coronal magnetic field and the plasma beta determined from radio and multiple satellite observations
研究メンバー:岩井一正, 柴崎清登 (国立天文台・野辺山太陽電波観測所), 野澤恵, 澤田真平, 宮脇駿 (茨城大学), 高橋卓也 (京都大学),北川潤 (名古屋大学), 柏木啓良 (東北大学)