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天文学とアートとのコラボレーション最前線

日本天文学会2015年秋季年会記者発表
研究グループ代表:大西浩次(長野工業専門高等学校・教授)

概要

天文学は、宇宙の起源や系外惑星などの研究の急激な進展によって、人間が誰でも思い描く根源的な疑問、すなわち「私たちがなぜここにいるか、私たちがどこからきたか?」といった疑問について、答えることが出来るような時代に入ってきた。この意味で以前にもまして、天文学と芸術とのつながりを模索することは意義があると考えられる。このような試みの1つとして、「志賀高原ロマン美術館」では、2015年7月18日~10月12日まで、企画展「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」を開催している。そこでは、「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」の事業としてアーティストが国立天文台野辺山宇宙電波観測所に滞在して得たインスピレーションを反映した全5作品と、長野ゆかりのアーティストによる「宇宙」の作品が展示されている。この「アーティスト・イン・レジデンス」という活動は、アーティストを地方自治体や研究機関などに数日から数ヶ月招聘し、滞在中の活動を支援する事業であり、本年5月に、国内の天文学研究機関としては初めて、国立天文台野辺山で実施された。これらの作品と共に、現在大活躍中のチリのアルマ電波望遠鏡用の受信機や国立天文台野辺山で実際に使用されていた受信機、東京大学木曽観測所で実際に使用された可視光や赤外線のCCDカメラなどを展示し、人や観測装置による「眼」を通した多様な宇宙像を提示している。わたくしたちは、このような天文学と芸術にわたる活動自体を新しいアート・天文教育の創造の場ととらえ、冒頭の疑問への答えをさぐれるよう、今後も活動を続けていきたい。

写真1)志賀高原ロマン美術館内展示の様子

写真2)アルマバンド10受信機(中央)

志賀高原ロマン美術館 企画展
「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」開催中!
山ノ内町制施行60周年記念・2015年度夏季企画展
「宇宙をみる眼―アートと天文学のコラボレーション」

会期:2015年7月18日(土)~10月12日(月・祝)
志賀高原ロマン美術館HP : http://www.s-roman.sakura.ne.jp/
長野県下高井郡山ノ内町大字平穏1465番地(上林温泉)
Tel: 0269-33-8855 Fax: 0269-33-8825

はじめに

古くから天文学は、音楽や美術や哲学と同様に、真理を探究する学問として存在していた。しかし、天文学が科学として発展するにつれ、両者は次第に乖離していった。21世紀になって、「インフレーション(初期宇宙の指数的な急膨張)」とよばれる宇宙の起源にかかわる証拠を探したり、宇宙における生命の起源を探したり、「系外惑星(太陽以外の星の周りの惑星)」の探査などを行なう研究の進展によって、天文学を研究する意味が質的に変わりつつある。これは、現代の天文学は、人間が誰でも思い描く根源的な疑問、すなわち「私たちがなぜここにいるか、私たちがどこからきたか」といった疑問について、直接答えることが出来るような段階に入ってきたからだ。このような時代において、天文学と芸術との親和性が再び増加してきている。だからこそ、いま、天文学者とアーティストの宇宙観を問うてみたい。そこで、「志賀高原ロマン美術館」において、天文学とアートの「眼」をとおして見たさまざまな宇宙像を提示する展覧会を企画し、今まであまりなかった両者の直接の交流を図り、天文学とアートとの融合の可能性を再考する機会を作りたい。

志賀高原ロマン美術館での「宇宙をみる眼」のコンセプト

志賀高原ロマン美術館では、「宇宙をみる眼」をテーマに、天文学とアートにおけるさまざまな「眼」をとおした「宇宙とはなにか」を提示する展覧会を開催中である。太古の昔より繰り返されてきた「宇宙とはなにか」という問いは、究極的には「人間とはなにか」という自分自身への問いにつながる。この自問こそ、天文学とアートとの共通の出発点である。 天文学では、望遠鏡という、私たちの目では見えない波長の電磁波をふくむ多波長の「眼」(装置)を発明することによって、より遠く深い宇宙を知ることができるようになった。アートにおいても「眼」の発展と共に、最新科学技術を利用した多彩なアートシーンが展開されている。このように、21世紀になって、「宇宙とはなにか」について、天文学者もアーティストも両者ともに、それぞれの「眼」をとおして研究や表現ができるようになってきた。 そこで、上記の美術展では、天文学側からは電波望遠鏡の受信機や光学望遠鏡のCCDカメラなどを展示し、アート側からは10人のアーティストによる宇宙に関する作品等を提示している。長野県ゆかりの出展アーティストの半数の5人は、「アーティスト・イン・レジデンスin 国立天文台野辺山」の参加者である。展示されている多様なアート作品からも「宇宙とは何か」、さらには、21世紀の天文学が私たちに及ぼす影響を感じてほしい。

「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」の活動

「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」は、企画展「宇宙を見る眼」のプレ・イベントとして、今年の5月25日から28日に実施された。「アーティスト・イン・レジデンス」とは、アーティストが実際に開催地に数日から数ヶ月間滞在し、そこでの体験からインスピレーションを得て作品を制作する企画である。アートの世界では、国内外を問わず頻繁に実施されている。日本では地方公共団体等が地域活性化のひとつとして取り組み、広がりを見せているが、天文研究機関での実施は国内において初めての試みであった。
今回のアーティスト・イン・レジデンスは、志賀高原ロマン美術館が主催し、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の協力により開催され、長野県ゆかりのアーティスト5名が参加した。開催期間中、野辺山観測所では、45m電波望遠鏡の制御室や受信機室の見学、研究内容が議論される談話会への参加、観測所長をはじめとする研究者・技術者へのインタビューなど、アーティストの方々が観測や研究の最前線を体感した。同時に、事前のプロフィールの交換やアーティスト自身による作品解説の機会を設けるなど、天文学者とアーティストの交流も図った。参加されたアーティストには、「貴重な体験」が出来たと好評であった。滞在中に得たインスピレーションをもとに誕生した作品が美術館で展示されている(写真3、写真4)。

写真3)青島左門「いのちの起源(A-1)」

写真4)千田泰広「3×1+」

「星の先生と絵の先生によるおはなし わたしのわからないこと―宇宙編―」

また、「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」に続くプレ・イベント第2弾として、山ノ内町全4小学校の3年、4年生を対象に、星の先生(大西浩次)と絵の先生(美術作家である山極満博氏)によるお話をもとに、子どもたちが自らの思いをふくらませて絵で表現する企画を5月に実施した。これをもとに、山極満博氏が作品《認識の果ての空、未知で広大な自然観測―-わたしのわからないこと:宇宙編》を制作し、志賀高原ロマン美術館企画展にて展示中である。

受信機、CCDカメラの「美」

「宇宙をみる眼」展では、天文学の「眼」として、実際の装置の展示を試みている 。電波の波長領域では、国立天文台が開発したアルマのバンド10受信機(2012年製作、写真2)を展示している。これは、南米チリ、標高5,000mのアタカマ砂漠の日米欧合同のALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計;アルマ)電波望遠鏡用の最高周波数帯(787〜950GHz)の信号を検出するための最新科学技術の集大成ともいえる受信機である 。もう1つは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所で2005年まで使用されていた45m電波望遠鏡用22GHz帯HEMT受信機(1996年製作)である。一方、東京大学木曽観測所シュミット望遠鏡用に開発された2つのカメラも展示している。 CCDカメラ2号機である1KCCDカメラ(1992年製) と、広視野赤外カメラKONIC(1997年製)であ り、最近開発された木曽広視野カメラKWFC(2012年製)に代わるまで、長年研究観測に使用されていたものである。これら4つの装置が配された展示ケースを 、木曽シュミット望遠鏡の乾板写真やフィルター の展示が囲 んでいる(写真1)。このような最新の科学技術の粋を極めた装置は、アート作品ではないが、固有の美しさを持つ 。これらをアート作品と同じ空間に共存させることで、新たな緊張と調和の関係を創りだすことを狙っている。

「宇宙を見る眼」の目指したものとその向こうに

志賀高原ロマン美術館が今回の企画展「宇宙を見る眼」で目指したものは、アートと天文学のコラボレーションによる宇宙観の融合ではなく、その多様性の提示であった。また、「答えを明確に出すのではなく、あくまで自分の存在について問いを発していく」ことを目指している。このような試みは、科学と科学技術を活用したアートとのコラボレーションという従来のアプローチとは異なったものである。展覧会を訪れた観客は、この昔からの命題である「自分が存在すること」の意味を再認識できるだろう。
天文研究機関としては初めての今回の「アーティスト・イン・レジデンス」活動をきっかけに、今後、天文研究者とアーティストの交流もますます盛んになって行くであろうと思われる。このような天文学とアートとの親和性を促す試みは、まだ、途についたばかりであるが、今後の天文学の発展とともに、社会からの要請も強まっていくと期待される。このように、天文学者やアーティストが出会う「場」を作る・活動をサポートすること自体が、一つのアート活動であり、天文学とアートとのさらなるコラボレーションを生みだす貴重な「場」となる。さらに、これら一連の活動から生み出された成果ならびに芸術作品は、より多くの人々に、天文学への関心を呼び起こす契機になるだろう。すなわち、このような「場」を作る活動が、天文教育の可能性を広げているといえる。

企画展としての「宇宙を見る眼、アートと天文学のコラボレーション」

写真5)志賀高原ロマン美術館企画展チラシ
【チラシ拡大画像:チラシ表なか

【作家プロフィール&コンセプト】

  • 青島左門(あおしま・さもん)*
  • 千田泰広(ちだ・やすひろ)*
  • 前沢知子(まえざわ・ともこ)*
  • 松本恭吾(まつもと・きょうご)*
  • 山極満博(やまぎわ・みつひろ)*
  • 大西浩次(おおにし・こうじ)
  • 小阪淳(こさか・じゅん)
  • 榊原澄人(さかきばら・すみと)
  • 早川和明(はやかわ・かずあき)
  • 松田朕佳(まつだ・ちか)
  • ※ *印は、「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」参加者。
    全ての作家のプロフィール&コンセプトをまとめたpdfは、こちらからどうぞ。


    ・記者会見をするグループ全員の氏名・所属・職位:

    • 大西浩次(おおにし・こうじ)長野工業高等専門学校・教授
    • 鈴木幸野(すずき・ゆきの) 山ノ内町立 志賀高原ロマン美術館・学芸員
    • 衣笠健三(きぬがさ・けんぞう)国立天文台・専門研究職員
    • 西岡真木子(にしおか・まきこ)国立天文台・特定技術職員  
    • 井出秀美(いで・ひでみ)国立天文台・事務支援員  
    • 内藤誠一郎(ないとう・せいいちろう)国立天文台・広報普及員  
    • 齋藤正雄(さいとう・まさお)国立天文台・野辺山宇宙電波観測所長•准教授

    ・当日の記者発表出席者

    大西浩次、鈴木幸野、衣笠健三


    ・問い合わせ先

    大西浩次

    電話番号:080-4838-3141(携帯)、026-295-7027(研究室)
    電子メールアドレス:ohnishi @ nagano-nct.ac.jp


    ・本学会における関連講演

  • Y11c「美術館でのアートと天文学のコラボレーション」大西浩次(長野高専)ほか
  • Y10c「美術館の「宇宙をみる眼-アートと天文学のコラボレーション」企画に於けるアーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」鈴木幸野(志賀高原ロマン美術館)ほか
  • Y09b「アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山」衣笠健三(国立天文台)ほか
  • 口頭発表(Y09b)は、9/9(水) 11:54分頃にB会場にて、ポスター発表(Y11c,Y10c,Y09c)は、ポスターセッション時間(9/9(水)14:00-15:00, 9/10(木)12:30-13:30, 9/11(金)12:30-13:30)にポスター会場(2-3)にて発表。


    ・関連資料

  • 【特別公開2015企画】ポスター『アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山』
  • 【News】アーティスト・イン・レジデンス in 国立天文台野辺山
  • 志賀高原ロマン美術館HP