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棒渦巻銀河に特徴的な分子ガスの運動を捉えた

概要
星生成の材料である分子ガスは、銀河がどのように成長してきたかを考える上で重要な存在です。 銀河内の分子ガスの運動の様子をつかむには、電波での観測が必要不可欠となります。今回の研究では、活発に星生成を行なっている渦巻銀河に着目し、その内部の分子ガスの運動を詳しく調べました。その結果、渦巻銀河の中でも、中心部分に棒状構造を持つ棒渦巻銀河と持たない銀河との違いが明らかになってきたのです。
棒渦巻銀河の棒状の構造部分は主に古い星で構成されていて、一般的にこの部分にある星やガスは銀河全体とは異なる独自のパターン速度で回転運動をしています。渦巻銀河では、ほとんどの分子ガスは銀河中心を周回する円運動をしていますが、棒渦巻銀河では、銀河中心に向かう運動など円運動とは異なる分子ガスの流れも考えられます。
国立天文台をはじめ、北海道大学、筑波大学といった多くの大学の研究者で構成された研究チームは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡を使って多くの近傍銀河を観測しています。今回の研究で、そのうちの20の渦巻銀河のガスの運動の様子を詳しく解析した結果、棒渦巻銀河の棒状の構造内において、円運動とは異なる大きな速度成分が存在することを発見しました。さらに特徴的なガスのパターン速度を求めたところ、棒状の構造が大きな銀河ほどゆっくりと回転していることも示唆されたのです。
国立天文台は、45メートル電波望遠鏡で得た観測データを次世代の研究の土台として残すことを目的とした「レガシープロジェクト」を、2014年から2017年にかけて進めてきました。今回の成果はその一つである「COMING(カミング)プロジェクト」によるものです。

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図1. 左:棒渦巻銀河NGC 2903とNGC 4303銀河の観測例。上段は、波長1.2マイクロメートルの画像(星の分布)を疑似カラーで表したものと、一酸化炭素の電波輝線の等高線(分子ガスの分布)。下段は、一酸化炭素ガスの速度場。銀河は回転しており、観測者に対して近付いている成分(青色)と遠ざかっている成分(赤色)が分かる。(クレジット 上段の疑似カラー:2MASS J-band, Jarrett et al. 2003、上段の等高線および下段:COMINGプロジェクト)
右:野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡。 (撮影:Dragan Salak)
COMING レガシープロジェクト
星生成の材料である分子ガスは、銀河進化を探る上で重要な存在です。野辺山宇宙電波観測所では、45m電波望遠鏡を用いて、銀河の性質やその進化を探るため、多くの近傍銀河での一酸化炭素(CO)分子ガスの観測を行う“CO Multi-line Imaging of Nearby Galaxies (COMING)”レガシープロジェクトが進められてきました。COMINGプロジェクトは、国立天文台をはじめ、北海道大学、筑波大学、大阪府立大学、名古屋大学、関西学院大学など、多くの大学のメンバーで構成された研究グループによって進められ、初めて多くの近傍渦巻銀河のCO分子ガスの分布が明らかにされています。図1は、その例を示したものです。

渦巻銀河の速度場のフーリエ解析
渦巻銀河では、ほとんどの分子ガスは銀河中心を周回する円運動をしています。一方で棒状構造を持つ棒渦巻銀河では、円運動のほかに銀河中心に向かう運動などの円運動とは異なるガスの流れも考えられます。図1左上段には観測された棒渦巻銀河の例を示しています。銀河の中心付近で細長く分布している棒状の構造は主に古い星で構成されていて、一般的にこの部分にある星やガスは銀河全体とは異なる独自のパターン速度で回転運動をしています。図1左下段は、45m電波望遠鏡で観測されたCOガスの速度場(速度マップ)の例を示したものです。
観測されたCOガスの速度場は、銀河の回転が周期的な運動だと考えると、物理学でよく使われるフーリエ級数で表すことができます。つまり、速度場をフーリエ級数とみなすことで、円運動と非円運動の速度成分をはっきり区別することができるのです。その単純な例を図2に示します。このモデルでは、銀河におけるガスが銀河中心の周りを回っていますが、円運動に加えて非円運動の速度成分も存在します。この例の非円運動の成分は、銀河中心方向(=動径方向)のガスの流れです。観測される速度は、銀河中心からのある半径で1次元に示すと、図2の実線のように見えますが、この関数をフーリエ級数とみなせば、点線の円運動成分と破線の動径方向(=非円運動)成分で判別し、その大きさも測定することができます。
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図2.ある半径での見かけの速度の1次元モデル(単位は任意)。観測された速度(実線)=円運動の速度成分(点線)+動径方向の速度成分(破線)。
COMINGグループは、45m電波望遠鏡で撮影した20の近傍渦巻銀河でCOガスの速度場を半径ごとにフーリエ解析し、図2のような細かい速度成分を求めました。その結果、図3に示すように棒渦巻銀河の棒状構造の領域内において、系統的に大きな非円運動の速度成分が存在することがわかりました。
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図3.非円運動の速度成分(円運動成分で割ったもの)。(左)渦巻銀河の平均(13天体)。(右)棒渦巻銀河の平均(7天体)。棒渦巻銀河では、半径が棒状構造の半径abの1/3のところで非円運動成分が最大になることがわかります。
棒状構造のパターン速度の測定
上記の結果から棒状構造の領域内では、COガスの運動が円運動から大きくずれることが明らかになりました。しかし、棒渦巻銀河の外側では、円運動が支配的な半径も存在することがわかりました。この半径をフーリエ解析から特定し、そこでは棒状構造が銀河全体と同じ速度で回転していると考えることで、棒状構造のパターン速度を決定することができます。本研究では、この方法によってパターン速度の新たな測定方法を確立しました。この方法で測定したパターン速度の結果から図4に示すように棒状構造が大きければ大きいほどパターン速度が遅くなることがわかりました。理論から予想される棒状構造の進化の特徴を支持する結果となりました。
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図4.棒状構造のパターン速度と半径の関係。棒状構造が大きければ大きいほどその回転が遅くなることがわかります。
この研究成果は、2019年12月に出版された『日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』の特集号「野辺山45m電波望遠鏡:レガシープロジェクトとFOREST受信機」に記載されています。
Salak et al. “CO Multi-line Imaging of Nearby Galaxies (COMING). VII. Fourier Decomposition of
Molecular Gas Velocity Fields and Bar Pattern Speed”, 2019, PASJ, 71 (SP1), S16 (1-26)
doi: 10.1093/pasj/psz0004

関連リンク
野辺山45m電波望遠鏡
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