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星は一人では生まれない? ガス雲衝突から始まる星団誕生の理解が進む

概要
星は、宇宙空間に漂うガス雲(注1)が自らの重力で収縮して形成されます。星にはさまざまな質量のものがありますが、 特に大質量星は多くの星々とともに、巨大な星団(注2)の中で形成されることが知られています。巨大な星団が誕生するためには、 大量のガスなどの物質を、小さな空間に短時間で詰め込む必要があります。しかし、このようなメカニズムはこれまで謎とされてきました。 名古屋大学、大阪府立大学、国立天文台などの研究者から成る研究チームは、宇宙空間に漂うガス雲同士の衝突が、 星団が誕生する主要なメカニズムであることを新たに発見しました。 これは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡やアルマ望遠鏡などを用いて10年以上に渡り観測を続けて得られた膨大なデータを調べた研究と、 観測データを再現する数値シミュレーションなどによる理論的な研究とから成る成果です。 ガス雲同士の衝突が天の川銀河だけでなく、外の銀河においても数多く発見されたことから、 こういった衝突は普遍的な現象であると考えられます。天の川銀河が誕生から間もない頃に他の銀河と衝突し、 互いの銀河の中のガス雲同士の衝突が頻繁に起こったことで、球状星団と呼ばれる巨大な星団が大量に誕生した可能性が高まりました。今回の研究によって、 大質量星の形成と、それらを含む巨大な星団が誕生するメカニズムについての理解が大きく進みました。

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図1 : ガス雲同士の衝突により誕生したと考えられる星団の位置と、代表的なガス雲の電波観測結果。 右の背景は天の川銀河を円盤面の垂直方向から見た想像図で、赤い丸が天体の位置、黄色い丸が太陽系の位置を示す。 わし星雲と[DBS2003]179については、可視光線で見ることができる星団とその周囲に輝く星雲の写真も併せて表示している。 (クレジット:名古屋大学、国立天文台、NASA、JPL-Caltech、R. Hurt (SSC/Caltech)、 Robert Gendler、Subaru Telescope、ESA、The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)、Hubble Collaboration、2MASS)

研究背景と内容
誕生した直後の宇宙には、水素とヘリウムしか存在しませんでした。しかし、現在私たちが住む世界には、 酸素や炭素や窒素、鉄などのより重たい元素が豊富に存在しています。太陽より 8 倍以上重たい星(大質量星)は、 これらの元素を宇宙の歴史の中で作り続けてきました。私たちがこの世に存在できるのも、これら大質量星のおかげです。星は宇宙空間に漂う、 希薄な分子からなるガス雲が収縮し、誕生すると考えられています。中でも大質量星は多くの星々とともに、星団として誕生することが知られていますが、 星団を効率的に作るガス雲の圧縮メカニズムは、未だ解明されていません。 名古屋大学大学院理学研究科の立原研悟准教授、福井康雄名誉教授らと、大阪府立大学の西村淳研究員、藤田真司研究員らを中心とする研究グループは、 それまで世界中の天文学者から素朴に信じられていた、星は「1つの」分子ガス雲の中で完結して生まれるのだろう、という常識を疑い、 複数の分子ガス雲が巡り合い、その衝突がきっかけとなって効率良くガスが集められているのではないかという仮説に着目しました。 この仮説を検証するためには、電波望遠鏡によって星団の母体となったガスを詳細に観測し、星団周辺に残ったガス雲の中で繰り広げられる、 複雑で多様な物理現象を考慮した上で、ガスの運動を緻密に紐解いていく必要があり、とても根気がいります。本研究グループは 10 年以上に渡って、 分子ガスデータの観測・解析を通して地道に経験を蓄積し、理論整備を行うことで、世界をリードしてきました。

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図2 : 数値シミュレーションで再現した 2 個の球状のガス雲が衝突する様子。左は真横から見た様子の時間進化、 右は衝突の最後の段階を、正面から見た場合の観測結果を示している。 (クレジット : 北海道大学, 京都大学)

これらは、独自に開発したNANTEN2電波望遠鏡や、新受信機FORESTを搭載した野辺山45m電波望遠鏡、さらに、 高い分解能を誇るアルマ望遠鏡によってもたらされた、世界的にも卓越した膨大な観測データにより実現されました。

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図3 : 分子ガスの観測に使われた電波望遠鏡群 (クレジット : 名古屋大学, 国立天文台)

これら研究の1つの節目として、ガス雲衝突による星形成についての現状の理解をまとめたレビュー論文を含む、 21編の新たな論文が 1 冊の特集号として 2021年 1 月に刊行されました。この特集号の意義は大きく2つあります。 1つ目は、これまでわずか数天体でしか知られていなかった現象が、近年の発見により92個にまで増えたことです。 特に、大規模な星団はその多くからガス雲の衝突の痕跡が見つかっています。これにより、大質量星を含む星団は、複数のガスが巡り合い、 衝突しなければ誕生できない可能性が高まってきました。宇宙物理学の一つの重要課題である星団誕生のきっかけは、ガス雲の衝突なのかもしれません。 2つ目に、ガス雲衝突による星団誕生の痕跡が、私たちの住む天の川銀河内で場所を問わず、さらには他の銀河でも普遍的に発見されつつあることです。 星団は宇宙誕生から今日に至るまで、ガス雲の衝突によって起こり続けてきたのかもしれません。 今後の研究には、2つの展開が考えられます。1つ目は、100数十億年前の銀河誕生期に生まれた星団が、 どのように形成されたかを明らかにすることです。これにより、私たちの住む銀河もかつて他の銀河との衝突や合体を経験し、 それがガス雲衝突を引き起こし、巨大な星団を生んだという仮説を検証します。もう1つは、より小規模な衝突現象の解明です。 宇宙に存在する星のほとんどは太陽のような軽い星で、それらはより小規模なガス雲衝突が引き起こした可能性があります。 しかしこれまでに分かっているガス雲衝突の痕跡は、質量の大きな星を含む星団が誕生した場所に限定されています。 太陽系の誕生も、小規模なガス雲衝突がきっかけとなったのかもしれません。

本研究成果は、個々の天体や物理現象を緻密に検証した20編の論文と、 それらをまとめたレビュー論文とから成る『日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』の特集号 “Star Formation Triggered by Cloud-Cloud Collision Ⅱ”(分子雲衝突による星形成2)として2021年1月に出版されました

論文情報
掲載紙:Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル:Special issue: Star Formation Triggered by Cloud-Cloud Collision II
著者及びDOI:一覧は以下を参照
https://academic.oup.com/pasj/issue/73/Supplement_1

用語解説
注1)ガス雲:ほぼ真空と言われる宇宙空間にも、わずかに原子や分子などの物質が存在しており、 それらが集まり、雲(星間雲)として観測される。密度は希薄だが、質量は大きなものでは太陽の数10万倍、 大きさは数100光年にものぼり、自らの強い重力で収縮し、新たな星を作る。
注2)星団:数10個以上、多いものでは数100万個以上の星の集団。特に球状星団として知られているものは、 天の川銀河の周囲に150個ほど発見されており、それらを構成する星は、誕生から100億年以上経っていることが知られている。 天の川銀河で過去に起きた爆発的な星形成の名残であろうと考えられている。

関連リンク
名古屋大学
大阪府立大学
国立天文台
野辺山45m電波望遠鏡
アルマ望遠鏡