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新星爆発により吹き飛ばされる共生星V407 Cyg の分子ガス

2010年05月27日

2010年3月10日九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏のチームは、はくちょう座V407 (V407 Cyg)という星が、突然7等星に増光している事に気づきました。この星は白色矮星と赤色巨星(ミラ型変光星)からできた連星系である事が知られています。ミラ型変光星からはおびただしい分子ガスが宇宙空間に放出されており、その一部が連星系内の白色矮星の表面に落下します。これが白色矮星の表面にたまると核反応が起こり、百年に一回位の割合で大爆発を引き起こします。このような爆発は古典新星爆発と呼ばれます。一方、ミラ型変光星からは、放出されたガス中に含まれる一酸化ケイ素分子にメーザー効果が起こり、強い電波が放出されています。 野辺山宇宙電波観測所の出口修至 准教授は、同観測所の45m電波望遠鏡を使ってこのような一酸化ケイ素メーザーから放たれる電波の観測に成功し、放出されたガスの様子を調べました。白色矮星の表面に新星爆発が起こると、その衝撃波がミラ型変光星から放出されるガス中を伝わり、ガス中の分子の状態を変化させます。そこで、新星爆発後の一酸化ケイ素メーザーから放たれる電波の変化を観測すれば、衝撃波がミラ型変光星から吹き出されたガス中を伝わってゆく様子がわかります。新星に付随した衝撃波の伝搬の様子を一酸化ケイ素分子の電波観測で捉えたのは世界で初めての事です。

図1:45m電波望遠鏡による新星爆発後の一酸化ケイ素メーザー輝線スペクトルの変化。 図中の左側の数値は、新星爆発後の日数を示す。赤線はミラ型変光星の中心速度を示す。新星爆発9日後に観測されたスペクトル(一番上)には、低速度側(赤線の左側、白色矮星に近いと推定される)のガス分子は見えず、爆発により分解されてしまったのであろうと思われる。一方、高速度側(赤線の右側)の分子は、9日後では爆発の影響を受けておらず、12日後まで存在していたが、27日後には消失している。これは衝撃波が通過し、ガスが変化した為であろうと思われる。一方、27日後から、低速度側(赤線の左側)にも輝線が見え出し、その後大きく変化はしていない。これは、衝撃波が通過し静かになった後で、ミラ型変光星から放出された濃いガスにより作られたメーザー輝線であろうと解釈される。
図2:一酸化ケイ素メーザー観測の結果から推測される衝撃波伝搬の様子を示す。空色の小さな円は白色矮星、赤い大きな円は赤色巨星である。白色矮星はおよそ46年周期で赤色巨星の周りを回っていると考えられている。我々は左側からこの連星系を観測している。白色矮星表面で起こった新星爆発による衝撃波は6日後には赤色巨星光球表面に達し、我々に近い側の一酸化ケイ素メーザー放出領域を破壊し始める(茶色の円の破線部)。12日後には、衝撃波はほぼ全域に達し、一酸化ケイ素メーザーは高速度成分だけが生き残る。18日後には衝撃波はメーザー領域を通過してしまうが、新しく我々に近い側の成分がミラ型変光星から放出され、メーザー放射をおこないスペクトルの低速度側成分を作り出したと考えることができる。白色矮星と赤色巨星間の距離はおよそ10天文単位であり、白色矮星の大きさは地球の大きさ程度で、この図では誇張し大きく描いてある。