研究成果
2007
Cyg-X3の電波バースト
2007年12月06日
図:Cyg-X3の電波バースト開始、1日後、2日後のスペクトルの変化。 電波強度の増加はミリ波帯から始まりセンチ波帯に移っていく。 一方減少もミリ波帯から始まりセンチ波帯に移っていく。
国立天文台、東工大、山口大などの合同観測チームは、 2006年2月に起こったブラックホール候補天体Cyg-X3の電波バースト(電波で見える爆発現象)を 野辺山45m電波望遠鏡、野辺山ミリ波干渉計、山口32m電波望遠鏡を組織して 爆発の初期の変化を観測することに世界で初めて成功しました。 電波強度は最初に波長の短い3mm帯の電波で観測され、 遅れて波長の長いセンチ波帯も電波強度が強くなりました。 しかし3mm帯の電波強度はすぐに弱くなってしまうが、 センチ波帯では強度はなかなか減少しないこともわかりました。 この電波バースト発生の2日後には超高分解能のVLB干渉計の一つであるJVN(日本VLBIネットワーク)により撮像観測され、 バースト初期の電波画像が世界で初めて撮られました。 これらの観測により長年謎とされてきたCyg-X3の活動性の研究に対して 大変重要な情報を得ることができました。(Tsuboi et al. 2008, PASJ, 60, 465)
星形成領域における初めての負イオン分子の検出
図:L1527で検出されたC6H−輝線
東京大学の坂井南美氏らは、野辺山45m電波望遠鏡・NRAO 100m電波望遠鏡を用い、 炭素鎖負イオン分子(C6H−)を おうし座分子雲の小質量星形成領域L1527において初めて検出しました。 星が誕生する場である分子雲には、様々な正イオン (H3+, HCO+, N2H+, etc.) が存在することが知られています。 一方で負イオンは、星なし分子雲コアTMC-1で C6H−とC8H−が検出されたのみで、 原始星が作られているような領域では1つも見つかっていませんでした。 星形成領域という、密度が高い環境での負イオンの振舞いを調査することで、 宇宙空間における負イオンの役割を探る上で極めて重要な情報を得ることができます。(Sakai et al. 2007, ApJ, 667, L65)
宇宙でも同位体を使って化学反応を追跡
図:明らかになったCCSの生成ルート
東京大学を中心とした研究グループは、野辺山45m電波望遠鏡・NRAO 100m電波望遠鏡を用い、CCSの生成過程を明らかにしました。 CCSは宇宙空間に特徴的に存在する分子で、20年前に野辺山で初めて発見されました。 その後、星形成に伴う星間分子雲の化学進化を調べる重要な分子として世界中の研究者に利用されてきましたが、 その生成過程は不明でした。 二つの13C同位体種C13CSと13CCSの存在量が大きく異なることから、 CCSの二つの炭素が生成時に非等価であったことがわかり、CS+CHの反応で生成されていることを明らかにしました。 同位体を用いて、星間空間で起こっている化学反応を追跡できることが明瞭に示されました。 (Sakai et al. 2007, ApJ, 663, 1174)
質量の大きな星なし分子雲コアの発見
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図:45m電波望遠鏡による観測結果(左2枚)とSpitzer宇宙望遠鏡による赤外線の観測結果
太陽の8倍以上の質量を持つ大きな星(大質量星)がどのように形成されるかは、 太陽程度の質量の星(小質量星)の場合に比べほとんど明らかになっていません。 その理由の一つとして、大質量星形成の初期状態があまり明らかにされていないということがあげられます。 国立天文台の酒井氏らは、野辺山45m電波望遠鏡を用い、AFGL 333領域において、 星形成の兆候が見られない質量の大きな分子雲コアを発見しました。 この天体は化学的な進化も進んでおらず、比較的最近形成された若い天体であると考えられます。 これまでに大質量な星なし分子雲コアはほとんど見つかっておらず、 大質量星形成の初期状態を明らかにする上で重要な発見と言えます。 (Sakai, Oka & Yamamoto 2007, ApJ, 662, 1043)
原始星は分子雲からどのようにして生まれるのか?
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図:45m電波望遠鏡(左)、OVRO干渉計(中)で得られた、 原始星GF9-2の母体の高密度分子ガスの分布とそれらを合成した電波画像(右)
私たちの太陽のような星が誕生する舞台は、星間空間に漂う分子ガス雲のなかにある濃いコアガスの塊、 分子雲コアです。この分子雲コアが自らの重力によって中心部に落下すると、 原始星の誕生に至ると考えられていますが、収縮開始時において、 分子雲コアは平衡に近い状態にあるのか、不安定な状態にあるのかは不明でした。 このほど、国立天文台ハワイ観測所の古屋玲氏らは、誕生して数千年というきわめて若い進化段階にある原始星、 GF 9-2を同定しました。さらに、野辺山45m電波望遠鏡と米国カリフォルニア州にあるOVRO干渉計を用いて観測し、 両者のデータを結合することによって、高い解像度を持つ分子輝線の画像を得ることに成功しました。 原始星GF9-2を産むに至った、母体の分子雲コア内の物質の分布や内部運動を詳細に解析した結果、 30年以上続く論争に対し、収縮開始時において、 分子雲コアは重力的不安定な状態であったという決定的な証拠が示されました。(Furuya, Kitamura & Shinnaga 2006, ApJ 653, 1369)
オリオン大星雲で、ねじれながらくるくると回転している特殊な
有機分子
(ギ酸メチル)が見つかった
2007年03月22日
図:オリオン大星雲とギ酸メチル
野辺山にある45m電波望遠鏡などを用いた観測で得られたオリオン大星雲から来る正体不明の電波を、 ギ酸メチル分子(化学式:HCOOCH3)が出していることを、 富山大学と国立天文台のチームがつきとめました(Kobayashi et al. 2007 ApJL 657, L17)。 オリオン大星雲から出ている正体不明の電波の内の約20本は、ギ酸メチル分子が図に示すようにねじれながら、 さらに分子全体が回転しているという特殊な状態にあるときに出す電波であることがわかりました。 これらの電波は星が生まれるガスの温度や、そこでの化学反応などを調べるのに役立ちます。 起源のわからない電波はまだ多数ありますが、 その多くがこのように大きくねじれながら回転する分子で説明できる可能性があります。
渦巻銀河のCOデータベース完成
小質量星形成領域における大型有機分子の検出
図:NGC1333IRAS4BのHCOOCH3輝線
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の坂井南美氏らのグループは、 45m電波望遠鏡を用いた高感度観測で、非常に若い小質量原始星NGC1333IRAS4Bにおいて 大型有機分子HCOOCH3の検出に成功しました(Sakai et al. 2006, PASJ, 58, L15)。 星形成過程のごく初期段階から存在していることを示しただけでなく、 小質量原始星では3天体目の検出例であり、 太陽と同程度の星の形成過程で大型有機分子が一般的に生成されている可能性を示しました。 原始星誕生から惑星系形成にいたる化学進化を捉える上で非常に重要な発見です。