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観測パラメータと達成感度の導出

観測領域の広さを l1 ["] times l2 ["] (スキャン方向にl1、垂直方向にl2)、 1スキャン(on-source)にかかる時間を tscan [s]、 天球上におけるスキャン速度を vscan ["/s] = l1/tscan、 スキャン列どうしの間隔を {\mit\Delta}l ["]、 スキャンの回数を Nrow = l2/delta l   +1 (シングルビーム受信機の場合) または Nrow = l2/(5 delta l)   +1 (BEARSの場合)、 OFF点1回あたりのスキャン本数をNscanSEQ、 作成するマップのグリッドサイズを d ["] times d ["]とします。

この観測において総on-sourceスキャン時間は
t_{\rm ONtot} = N_{\rm row}t_{\rm scan}
です。 OFF点、望遠鏡の移動時間などを含めた総観測時間は
t_{\rm OBStot} = N_{\rm row} \left(t_{\rm scan} + t_{\rm OH} + \frac{t_{\rm OFF}}{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}} \right) f_{\rm cal}
となります。 ただし tOFF [s]はOFF点積分時間、 fcalはR-SKYキャリブレーション取得のオーバーヘッド (15分に1回、1分間かけてR-SKYを取得すると、fcal=16/15)。 tOH [s]はスキャン1本あたりのオーバーヘッドで、 OFF点への往復 2\timesttranOFF、 approach時間 tapp [s]、 transit時間 ttran [s] からなり、
t_{\rm OH} = \frac{2t_{\rm tran}^{\rm OFF}}{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}} + t_{\rm app} + \frac{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}-1}{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}} t_{\rm tran}
と表されます。 ttranOFFは、 OFF点までの距離dOFF [arcmin]を用いて、経験則 ttranOFF = ceil( 4.4\timesdOFF0.26 ) で表されます。一方、tappttranは高度角Elにおけるアンテナの最大駆動速度 (vscan + 15cos(Dec) ["/s]) / cos(El) から、図2-1の関係を用いて求められます。 このとき、全観測時間に占めるon-source積分時間の割合は
\eta_{\rm ON/OBS} = \frac{t_{\rm ONtot}}{t_{\rm OBStot}} = \frac{t_{\rm scan}}{t_{\rm scan}+t_{\rm OH}+t_{\rm OFF}/N_{\rm scan}^{\rm SEQ}} \cdot \frac{1}{f_{\rm cal}}
となります。

1グリッドあたりの実効ON-source積分時間は、ビームがグリッド内をスキャンする時間の総計に ファクター\etaを掛けたもので、
t_{\rm cell}^{\rm ON} = \frac{\eta t_{\rm scan} d^2}{l_1 {\mit\Delta}l} \mbox{ (single-beam), } \frac{5\eta t_{\rm scan} d^2}{l_1 {\mit\Delta}l} \mbox{ (BEARS)}
となります。 \etaは convolutionの関数形とパラメータによって決まる定数で、以下のように求められます。 観測点 i = 1,2,... が空間方向に一様分布しているものとし、 各点のスペクトルを Ti(k) [k = 1,..,Nch]、 rms雑音温度を \sigmai、 convolution関数の重みを wi とします。 簡単のため、各点の積分時間 t0 および 雑音温度 \sigmai = \sigma0 = Tsys/sqrt(B t0) を一定とします。 Convolution後のスペクトル T(k) は T = (\sumwiTi)/(\sumwi) と書け、その雑音温度\sigma\sigma = sqrt(\sumwi2)/\sumwi \times \sigma0 = Tsys/sqrt(B tcellON) とります [ただしtcellON \equiv (\sumwi)2/\sum(wi2) \times t0 ]。 空間方向の長さを、グリッド間隔を単位として書くことにし、 t0を単位面積(1グリッド)あたりのon-source積分時間と再定義すると、 \sumは積分で書き直すことができ、tcellON = (\intw dx dy)2/\intw2dx dy \times t0 \equiv \etat0 となります。 デフォルトのパラメータを使った場合、 Bessel×Gauss, Sinc×Gauss, Gauss, Pillbox, Spheroidalに対する \etaの値はそれぞれ 4.3, 1.2, 6.3, 1.0, 10.2 となります。

システム雑音温度をTsys [K]、 作成するマップの周波数分解能をB [Hz]とすると、 on-sourceスキャン由来の雑音温度は
{\mit\Delta}T_{\rm A}^*({\rm ON}) = \frac{T_{\rm sys}}{\eta_{\rm q}\sqrt{B t_{\rm cell}^{\rm ON}}}
です。 ここで\etaqは分光計の量子化効率で、 現行のデジタル分光計(AC)では2ビット量子化を行っており \etaq=0.88です。 一方、1グリッドを構成するのに使われるOFF点の数はおよそ 1+(d-{\mit\Delta}l)/ (NscanSEQ{\mit\Delta}l) 個 (シングルビーム受信機) または 5d/{\mit\Delta}l 個 (BEARS) です (実際にはconvolution関数がグリッドの外まで値を持つので実効的なOFF点数はこれより多くなりますが、その効果は無視します。 この効果を考慮に入れると最適OFF点積分時間はおよそ\eta-1/4倍になります。 観測効率への影響は無視できる程度です) NscanSEQが小さく、 d{\mit\Delta}l がほぼ等しいとき(たいていの観測で当てはまる)、シングルビーム受信機のOFF点個数は d/{\mit\Delta}l で近似できます。 したがって1グリッドあたりのOFF積分時間は
t_cell^off = t_off x d/delta l (single-beam), 5 x t_off x d/delta l (BEARS)
であり、OFF点由来の雑音温度は
ΔTa*off = Tsys/eta_q*sqrt(B t_cell^on)
となります。 マップのノイズレベルは
delta Ta* = sqrt(delta Ta*(on)^2+ delta Ta*(off)^2) = Tsys eta_q^(-1) B^(-1/2) sqrt(t_cell(on)^(-1)+t_cell(off)^(-1))
と表されます。

単位観測時間あたりに達成されるマップのノイズレベル {\mit\Delta}TA*(0)は
{\mit\Delta}T_{\rm A}^*(0) = {\mit\Delta}T_{\rm A}^* \sqrt{t_{\rm OBStot}} = \frac{T_{\rm sys}}{\eta_{\rm q}\sqrt{B}} \sqrt{\left( \frac{1}{t_{\rm cell}^{\rm ON}} + \frac{1}{t_{\rm cell}^{\rm OFF}} \right) \left(t_{\rm scan} + t_{\rm OH} + \frac{t_{\rm OFF}}{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}} \right) N_{\rm row}f_{\rm cal}}
と表されます。 これを最小にするtOFFが最適なOFF点積分時間で、
\frac{\partial}{\partial t_{\rm OFF}} {\mit\Delta}T_{\rm A}^*(0) = 0
より
t_{\rm OFF}^{\rm optimal} \simeq \sqrt{\left(t_{\rm scan}+t_{\rm OH} \right) \frac{\eta d t_{\rm scan}}{l_1}} \sqrt{N_{\rm scan}^{\rm SEQ}}
となります。

Fig. 2-1: Effective beam after convolution
図2-1:アンテナ駆動速度に対して必要な 助走時間tapp、 移動時間ttranの実測値。

マップ作成時のconvolution

リダクションソフトに実装されているconvolution関数は以下のとおりです(図1-2):

Fig. 1-2: Convolution functions
図1-2:実装済みのConvolution関数 Bessel*Gauss (a=1.55/\pi, b=2.52), Sinc*Gauss (a=1.55/\pi, b=2.52), Gauss (a=1.0), Pillbox, Spheroidal (m=6, \alpha=1.0)。

デフォルトのBessel*Gauss convolution関数のFWHMはマップグリッド間隔dの約2倍です。 グリッド間隔をビーム幅の0.1倍, 0.2倍, ..., 1.0倍としてマップを作成したとき、 convolution後の点源への応答(実効ビーム)は図5-1のようになります。 点源の強度と実効ビーム幅は図5-2のように変化します。 グリッド間隔をビーム幅の半分にしたとき、 点源のピーク強度は約0.7倍、実効ビーム幅は約1.3倍になることが読み取れます。

dが小さすぎると1点あたりの実効積分時間(tcellON)が小さくなるため ノイズレベルが大きくなります(分解能は望遠鏡のビームで決まるため、過剰なオーバーサンプルになります)。 一方、dが大きすぎると実効分解能が落ちます(2dに漸近)。 この間で適切なグリッド間隔を選ぶ必要があります。

理論上、45m鏡はλ/45mまでの空間構造に対して応答を持ちます。 したがって、観測データの持つ空間情報を(なるべく)aliasingによって失わないためには、 グリッド間隔をλ/45m/2(λ=2.6 [mm]の場合、6.0 ["])よりも小さくする必要があります。 干渉計データとのコンバインを行う場合などにはとくにご留意ください。

Fig. 5-1: Effective beam after convolution
図5-1:マップ作成時のグリッド間隔をビームFWHMの0.1倍, 0.2倍, ..., 1.0倍としたときの、 点源に対する応答(実効ビーム)。 横軸は点源からの距離(ビームFWHMを1として規格化)、 縦軸は強度(convolutionなしのピーク強度を1として規格化)。 ビームはGaussianを仮定。

Fig. 5-2: Effective beam after convolution
図5-2:マップ作成時のグリッド間隔(横軸:ビームFWHMを1として規格化)を変化させたときの (左) 点源の強度 (右) 実効ビーム(FWHM) の変化。縦軸はconvolutionなしの場合を1として規格化。

ビームサイズ・グリッド間隔・convolution関数種別を入れると実効ビームを計算するCプログラム convbeam.c,およびconvbeam2d.c(2次元の実効ビーム版)を用意しました。

% cc -lm -o convbeam convbeam.c
% ./convbeam > hoge.dat
HPBW of the telescope [arcsec]:15
Grid spacing of the map [arcsec]:6
Conv function [0:B*G 1:S*G 2:G 3:PB 4:SF]:0
FWHM ~ 17.4 [arcsec]

望遠鏡のビームが15 ["]、グリッドサイズ6 ["]、Bessel*Gauss型関数でconvolutionを行うと、 実効ビーム半値幅は約17 ["]となることがわかります。 リダイレクトされた標準出力hoge.datには、 半径に対する点源の応答が書かれます(FWHMの値は標準エラー出力に書かれます)。

マップのGLS投影とWCS

マップ作成時には、天球座標から平面座標への投影法としてGLS (global sinusoidal projection)が使われます。 すなわち、参照点【一般にはSource Tableに記述した座標】を(RA0,DEC0)としたとき、 天球座標(RA,DEC)から平面座標(X,Y)への変換は

sin(X/2) = sin((RA-RA0)/2)*cos(DEC)
Y = DEC-DEC0

で記述されます。 (l,b)を(X,Y)に変換する手段も同様です。

出力されるFITSファイルの座標関係のヘッダはAIPSの形式に準じており、

CRVAL1 = RA0
CRPIX1 = 1 - XBLC/CDELT1 = 1 - (2*asin(sin((RABLC-RA0)/2)*cos(DEC)))/CDELT1
CRVAL2 = DEC0
CRPIX2 = 1 - YBLC/CDELT2 = 1 - (DECBLC-DEC0)/CDELT2

等となっています。 投影の中心は(RA0,DEC0)ではなく(RA0,0)であるため、 World Coordinate System (WCS)への変換に際しては注意が必要です。

データの量子化ビット数

OTF生データは12ビット(4096レベル)で量子化されています。 NewStarの32ビット(4.3×109レベル)と比較して少ないですが、 データ容量削減のためにこのようにしました。 OTFでは1点あたりの積分時間が短い(0.1秒)ためにS/N比が低いこともあり、 量子化による損失は無視できます。 ただし、なんらかの原因で観測バンド内においてバンド特性が~0になった (TA*が発散)場合や、 極端に(ほんとうに極端に)強いスプリアスが入った場合にはデータに悪影響が発生することが起こりえます。

とくに、32MHzモードでの分光や、シングルビーム受信機の出力を512MHzモードで分光する場合においては、 バンドパスフィルタの特性によって バンド端でのTA*の発散が発生しやすくなります。 スキャンテーブルの設定で 不要なチャネルを切り落とすことを強く推奨します。

ドップラー補正

ドップラー(vrad; 基準座標系LSR/Heliocentricに対する望遠鏡の運動)補正は 観測後にソフト的に行っています。 すなわち、スキャン中にvradの変化に応じてLO周波数をシフトさせることはせず、 分光計の出力(R, SKY, OFF, ON)からチャネル毎に (ON-OFF)/(R-SKY)演算を行い、 その後にON点のvradに応じて周波数方向のシフトを行っています。 OFF点にemissionが存在するとデータ上ではabsorptionのように見えますが、 その"absorption"が現れる速度はON点のvradが変化するにつれてずれていくことになります。 これを後から補正することは困難ですので、 OFF点の選定は十分に注意を払って行う必要があります。

仮に、R, SKY, OFF, ONをそれぞれのvradに応じて周波数方向にシフトさせた後に (ON-OFF)/(R-SKY)演算を行う方式を取れば、OFF点emissionの補正は可能になります。 しかし、この方式ではバンド特性の"微分"がベースラインに乗ってデータの質が著しく悪化するという副作用が発生します。 そのため、(ON-OFF)/(R-SKY)演算後にチャネルシフトを行う方式を採用しました。

FAQ

ノイズrms マップに図の様な縞模様が見えるのだが。

データ処理過程で、Doppler trackを行うため、ソフト的にチャネルをシフトさせています(こちら参照)。この際、1ch よりも小さいシフト量補正を、線形補間で行っており、このため、rms が少し低くなります。Doppler trackはVradに依存するため、このことが空間方向で周期的に起こり、rms マップに縞模様として現れます。

stripe

しかしながら、スペクトル線が、分光器の分解能よりも太ければ、強度はほとんど影響されないと考えられます。

できたマップにblank値が入っているのだが。
グリッドの周囲に十分な数(Map GUIの "Minimum number of data"で指定)のデータ点がないとblankが入ります。 注意:ベースラインの引かれていないデータはマップ作成時にスキップされます
観測時にIFの設定を間違えて周波数がずれてしまった。
(1) ヘッダFRQ00を「実際に観測してしまっていた周波数」に書き換えて、 (2) マップ作成時に参照周波数(ラインの静止周波数)を指定すれば 大丈夫なはずです(未検証ですが)。 ヘッダの修正はボタンパネルの「Modify Header」から行います。
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Last Update: 1st August 2018