国立天文台野辺山宇宙電波観測所は世界最高級の性能を持つ45m電波望遠鏡を運用し、宇宙から到来する微弱な電波を調べることでブラックホールの正体、星の誕生、銀河の生い立ちなどを調べています。2026年度より、大学主導にて2件の新たな高性能受信機の開発プロジェクトが開始されました。これらにより、45m電波望遠鏡の性能が一段と向上するとともに、これまで45m電波望遠鏡では未開拓だった更なる高周波数帯での定常的な観測が実現され、ブラックホールの正体、星の誕生、銀河の生い立ちなどについての謎の解明につながる新事実の発見に迫れる事が期待されると同時に、新たなミリ波技術の開発と実用化がより一層進んでいくことが期待されます。
新たに始まること
2026年度より、2件の科学研究費補助金(日本学術振興会)が採択され、受信機開発プロジェクトがスタートしました。
| 種目・研究番号 | 課題名 | 代表者 |
|---|---|---|
| 科研費基盤研究(S) 26K21725 | 次世代国際ミリ波干渉計ネットワークで挑む 巨大ブラックホールのジェット駆動と多様性 | 秦 和弘 (名古屋市立大学, 准教授) |
| 科研費基盤研究(A) 26H02067 | 大規模マルチピクセルカメラの実現に向けた 超伝導集積回路型ヘテロダイン受信機の開発 | 中島 拓 (公立諏訪東京理科大学, 准教授) |
これらの研究計画により、秦准教授が率いるチームにより新たな230GHz帯受信機が、中島准教授率いるチームにより新たな150GHz帯超伝導集積回路型マルチビーム受信機が、それぞれ開発されます。
新たな受信機で実現されること
新たな230GHz帯受信機
巨大ブラックホールの研究を目的とした受信機です。巨大ブラックホールは、1992年に野辺山45m電波望遠鏡で極めて高速に運動するガス塊が観測された事をきっかけに発見され、2019年には世界中の電波望遠鏡が結合して実現したイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)により写真が撮影され、世間を賑わせました。EHTは230GHzという高い周波数の電波を用いて観測を実施しましたが、野辺山45m電波望遠鏡には230GHz受信機が搭載されておりませんでした。新たに230GHzの観測を実現する受信機を開発し野辺山45m電波望遠鏡に搭載することで日本国内からもEHT国際ネットワークに参加し、次世代のブラックホール観測に大きく貢献することが期待されています(図1)。

さらに、日米を中心に、ミリ波電波望遠鏡を人工衛星軌道に打ち上げ、宇宙空間をも利用したブラックホール観測計画Black Hole Explorer (BHEX) が準備中ですが、野辺山45m電波望遠鏡が230GHz受信機を搭載すれば、BHEXの性能も格段に向上することが見込まれます。新たに開発する230GHz帯受信機では、大気の揺らぎによって低下してしまう観測精度を補正し、地上からの観測性能を極限まで高めるために86GHzも同時に観測できるようにします(図2)。

新たな150GHz帯マルチビーム受信機
星間物質の物理状態・化学進化の研究を目的とした受信機です。野辺山45m電波望遠鏡に搭載されれば、世界初の150GHz帯マルチビーム・ヘテロダイン受信機となります。さらに、この受信機には、国立天文台先端技術センターで開発中の超伝導ミリ波集積平面回路が利用される予定で、観測に成功すれば世界初の実用化となります(図3)。これまで野辺山宇宙電波観測所では、FOREST(4ビーム)、7BEE(7ビーム)といった高性能なミリ波マルチビーム受信機を開発してきましたが、受信機に利用される導波管などの立体回路が大きくかさばるため、小型化と集積化が難しく、ビーム数(画素数)は10程度が限界でした。超伝導ミリ波集積平面回路が実用化されれば、将来的には100ビームを超えるような大規模なマルチビーム受信機の実現が現実的なものとなってきます。

開発プロジェクト始動!
始動した開発プロジェクトを確実に推進し成果を得るために、対面でのキックオフミーティングが野辺山宇宙電波観測所で2026年4月10日に開かれました。秦和弘准教授、中島拓准教授、共同研究グループの小川英夫名誉教授(大阪公立大学)のほか各大学の大学生・大学院生が一堂に会し、最新の開発研究動向を共有し、今後のプロジェクトの進め方を議論しました。また、45m電波望遠鏡の受信機室にも立ち入り、完成した受信機の設置場所などを確認しました。

プロジェクト推進者からのコメント
秦和弘 名古屋市立大学 准教授
史上初のブラックホール撮影をはじめとするEHT国際協力において日本は大きな貢献をしてきましたが、これまでEHT観測ネットワークに日本国内の電波望遠鏡は参加していませんでした.ミリ波帯で世界最大級の野辺山45mアンテナがEHTに加わることで、より鮮明なブラックホールの動画やジェット発生の謎に迫ることができます.こうした背景のもと、本プロジェクトを立ち上げました.230GHz帯 (波長1ミリ)という極めて短波長における受信機開発や45mアンテナの運用体制の確立は大変難しい課題であり実現には時間を要しますが、全国の大学・研究機関とも緊密に連携し一丸となって挑戦していきます.新たなステージに入ったブラックホール研究の今後の展開に、ぜひご期待ください.
中島拓 公立諏訪東京理科大学 准教授
私たちが計画してきた新しい受信機開発プロジェクトがスタートすることになり、今はとてもわくわくした気持ちです。今回開発する受信機は、国立天文台先端技術センターの実験室で開発が進められている超伝導集積回路技術を用いた初めての受信機システムで、その実用化はとてもチャレンジングな課題です。しかし、この受信機を搭載する45m電波望遠鏡は国立天文台野辺山キャンパス(長野県南佐久郡南牧村)に設置されており、私たち公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)からはアクセスが容易ですので、本学の実験室での開発後の野辺山への移設や望遠鏡への搭載作業、さらに試験的な観測の実施や問題点のフィードバックなどが、とてもやりやすい環境にあります。昔から宇宙/天文観測の最先端の研究施設が数多く設置されている長野県だからこそ、私たちが協力してスタートできたプロジェクトだと感じています。このプロジェクトを通じて、多くの良い成果が出せるように頑張ります。
西村淳 国立天文台野辺山宇宙電波観測所 所長
新受信機開発プロジェクトが2つもスタートしたこと、とても嬉しく思います。どちらのプロジェクトも45m電波望遠鏡の特徴「ミリ波で世界最大級」であることを活かしており、開発される新たな受信機によって45m電波望遠鏡の性能が一段と向上し、世界的にも更に重要性が増します。これらの新受信機によって、これまで分かっていなかった宇宙の側面を、新たに調べられるようになることに今からワクワクしています。更に、これらの新プロジェクトが大学発でスタートしたことにとても注目しています。大学発プロジェクトでは、多くの学生さんや大学院生さんが開発に携わることになります。世界最先端の科学を実現する最先端の装置開発を通して、多くの若手の方が経験を積み成長できます。この刺激的でとても楽しいプロセスを経験する輪が色々な大学に広がっていくことがとても嬉しいです。
本リリースについて
本リリースは、野辺山宇宙電波観測所、名古屋市立大学、公立諏訪東京理科大学の 3 者で同時配信しています。


