銀河の「電波指紋認証」の試み
〜銀河系近くにある3つの銀河における分子のカタログが完成!〜
宇宙には強烈な電磁波を放射して明るく輝く銀河があります。そのひとつは、
超巨大ブラックホールを源として莫大なエネルギーを放出する「活動銀河核(AGN)」 を持つ銀河で、
もうひとつは、「爆発的星生成(スターバースト)銀河」と呼ばれる短期間に大量の大質量星(太陽の8倍以上の質量を持つ星)が生まれている銀河です。
この2つのタイプの銀河は、全く異なる物理現象をエネルギー源として光っていますが、銀河進化では両者が関係しているという考えもあり、
その関連性はよくわかっていません。その原因の一つは、その中心領域にはどちらも多量の星間物質(ガスや塵)が存在しているために、
可視光では内部を見通すことができないからです。電波望遠鏡では中心核付近に存在する分子ガスが発する電波(分子スペクトル線)が観測でき、
AGNやスターバースト銀河の心臓部で起こっている謎に迫ることができると期待されます。
日本大学の高野秀路教授(観測時は国立天文台野辺山宇宙電波観測所・助教)と名古屋大学の中島拓助教(同・研究員)を中心とする研究グループは、
AGNとして超巨大ブラックホールを持つNGC 1068 (M 77)のほか、典型的なスターバースト銀河であるNGC 253とIC 342という近傍の有名な3つの渦巻銀河について、
野辺山45m電波望遠鏡を用いて観測を行いました。
2007年から2012年にかけて行われた野辺山レガシープロジェクト「分子輝線サーベイ」の一つのプロジェクトとして実施されたこの観測は、
約500時間という長い時間をかけて、45m電波望遠鏡の得意とする波長約3mmの電波において、
30 GHzという広い帯域をカバーして分子輝線を系統的に探し出すものでした。
観測の結果、NGC 1068で25本、NGC 253で34本、IC 342で31本の分子および水素原子のスペクトル線を検出しました。
世界最大級の野辺山45m電波望遠鏡によって、この波長帯ではもっとも空間分解能の高いデータが得られ、
これら3つの銀河の中心領域における高精度な分子輝線カタログを作成しました。
特に、IC 342についてこのような分子輝線カタログが作られたのは世界で初めてです。
これらのデータを解析した結果、AGNを持つNGC 1068では、
炭素原子と窒素原子が結合したCNを含む分子(シアンラジカル、シアン化水素、
それらの13C同位体種など)がスターバースト銀河であるNGC 253やIC 342などに比べて、
多く存在する傾向が明らかになりました。これらの傾向は、
ブラックホールを伴う活動中心核を持つ銀河とスターバースト銀河における環境の違いを表している可能性が高いと考えられます。
こうした傾向が他の銀河でも見られるかどうか、今後同様の観測研究を他の銀河においても進めていくことで、
濃いガスの中に隠された超巨大ブラックホールの存在を明らかにする「電波指紋認証」の手法を確立することにつながると期待されます。
本研究成果は、1つ目の論文が2018年2月に『日本天文学会欧文研究報告 (Publication of the Astronomical Society of Japan)』にて出版されました。
そして、2つ目の論文が2019年3月に同誌電子版に掲載され、今後発行される「野辺山特集号」にて出版される予定です注。
注:12月下旬に出版されました。
鋭いピークとして見えている部分が、それぞれの分子スペクトルに対応しており、主な分子名を図の最上段に示した。 なお銀河の背景画像は、NGC 1068はハッブル宇宙望遠鏡(Credit: NASA, ESA & A. van der Hoeven)、 NGC 253はVISTA(Credit: ESO/J. Emerson/VISTA)、 IC 342はSedona Stargazer Observatory(Credit: Stephen Leshin)による。