いて座方向でコマのように回転している有機分子(アセトニトリル)が多数見つかった!
概要
宇宙には、水素分子、水、一酸化炭素、アンモニアなどとともに、メタノールなどの有機分子も存在しています。宇宙にある分子は星間分子と呼ばれ、星ではなく、星を作る材料となる分子雲と呼ばれるガスの集まりで発見されます。これまでに、200種を超える星間分子が発見されており、そのほとんどが電波望遠鏡の観測によるものです。宇宙空間において、分子は分子同士の衝突などによって回転をしています。そして、その回転の様子が変わる際に電波を放出します。その電波を受信することによって分子の存在が確認できます。
東京理科大学の荒木光典研究員/プロジェクト代表をはじめとする共同研究チームは、分子雲にある代表的な有機分子の一つであるアセトニトリル(CH3CN)に着目して、分子雲中での回転の様子を調査しました。この分子は細長く対称性がよい形状のため、コマのように長軸まわりに回転しやすいと考えられます。一般的な分子雲の密度の濃い部分では分子同士の衝突が比較的頻繁に起こるため、様々な方向の回転となりますが、密度の低い部分では衝突はあまり起こらず、コマのような回転の方が多くなると考えられます。ただし、密度の低い部分の観測は難しく、これまではその兆候が見られる天体はあったのですが、顕著な天体は見つかっていませんでした。
今回は、密度の低い天体でも観測できる方法を見つけ出し、45メートル電波望遠鏡での観測ができそうな天体を探査したところ、銀河中心付近にあるいて座の分子雲Sgr B2(M)にて、コマのような回転をするアセトニトリルが顕著に多いところを見つけ出しました。この発見により、アセトニトリルのより正確な量を把握することができるようになります。アセトニトリルは星間分子の中でも代表的な有機分子の一つであるため、分子雲における有機分子の量や分布を知る上で非常に重要な意味を持ちます。
宇宙空間では、水素分子や一酸化炭素、水、アンモニアなどの単純なものから、メタノールや酢酸などといった比較的複雑な有機分子まで、これまでに200種を超える星間分子が発見されています。これまでに野辺山45メートル電波望遠鏡でも16種の星間分子が発見されています。電波望遠鏡における星間分子の観測では、分子の回転状態の変化の際に出す電波をとらえるため、その存在とともに、分子の回転の様子もつかむことができます。その回転の情報を詳細に調べることにより、その全体の量や分布、そして、その分子のおかれている環境などの情報を得ることができます。星間空間の有機分子を調べることは、生命の起源についてのアプローチとなります。それは、分子雲に存在する有機分子が、彗星などにより地球に運ばれたことで、地球の生命が誕生したのではないかと考えられているからです。
アセトニトリル分子と回転方向
星の誕生のもととなる分子雲では、圧倒的に水素分子が多いため、他の分子は主に水素分子との衝突によって様々な方向に回転しています。この研究で注目したアセトニトリルも同様ですが、図1のように細長く対称性がよい形状のため、コマのように長軸まわりに回転することができます。密度の濃い領域では衝突が比較的頻繁であるため、様々な方向に回転しています。一方で、密度の低い領域では衝突が少ないため、電波を出すことにより分子全体の回転は緩やかになってしまいます。しかし、対称性が良い分子の性質として、コマのような長軸まわりの回転だけは活発な状態が残ることが知られています。これまでにコマのような回転が少し多いという観測例は確かに報告されていますが、顕著に多いという報告はありませんでした。
観測の手法と成果
密度の薄い領域では、存在する分子の量も少なくなりますし、電波も放出しにくくなるため、観測がたいへん難しくなります。そのため、分子から放出される電波をとらえる一般的な観測方法ではなく、分子が吸収する電波の様子をとらえることを考えました。つまり、強い電波を放出する天体を背景として、影絵の仕組みを使うことにより、その手前にあるアセトニトリルを見つけ出すのです。電波の周波数ごとの観測データには、吸収された様子を確認することができます。このような観測ができる天体を選別して、45 メートル電波望遠鏡(図3)による探査を行いました。その結果、銀河系中心付近に位置するいて座の分子雲 Sgr B2(M) (図2) の周辺の希薄な領域において、コマのように回転するアセトニトリルが多く存在することを発見しました。解析の結果、45 %のアセトニトリルがコマのように回転していることがわかりました。(図1右)。この比率はこれまでの観測では最も大きな値となります。
この観測の結果、Sgr B2(M)でのアセトニトリルの量や分布を正確に把握することができるようになりました。アセトニトリルは星間の有機分子の代表種の一つであるため、このような方法によってその量がきちんと測定できるようになると、さまざまな分子雲におけるこの分子をはじめとした有機分子の量や分布を知ることにつながります。このような有機分子の詳細な探索は、宇宙における生命の誕生と存在についてのアプローチとなると考えられます。
この研究成果は、イギリスの王立天文学会誌(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」)にて、2020年8月10日に掲載されました。 論文タイトル: Observations and Analysis of Absorption Lines including J = K Rotational Levels of CH3CN: The Envelope of Sagittarius B2(M) 著者: Mitsunori Araki, Shuro Takano, Nobuhiko Kuze, Yoshiaki Minami, Takahiro Oyama, Kazuhisa Kamegai, Yoshihiro Sumiyoshi, and Koichi Tsukiyama DOI: 10.1093/mnras/staa1754
関連リンク
東京理科大学の成果発表のページ
野辺山45m電波望遠鏡